我々は今年度においては、主として、Nekrasov方程式の正値解の大域的な一意性に対する数値的検証法に関する研究を行なった。 水面波におけるある種の進行波の一意性を証明することは、Nekrasov方程式に対する正値解の一意性の証明に帰着することが知られている。一意性の証明は多くの水面波の研究者にとって40年来の未解決問題であったが、Nekrasov方程式に対し数値的検証法を用いることにより正値解の大域的な一意性の証明に成功した。 本研究においては、精度保証付き数値計算を用いて反復により解の存在範囲を逐次評価し、ある程度解の存在範囲が限定されたところで縮小写像を評価するという手法を用いた。 実際の計算においては計算速度を上げるため、浮動小数点の丸めの方向を制御することにより精度保証を実現している。この結果、3.009【less than or equal】μ【less than or equal】3.0092と3.3【less than or equal】μ【less than or equal】30の範囲について正値解の一意性を証明することができた。μ=3はこの方程式の分岐点になっており、分岐点近傍での数値計算は非常に困難であるが、その付近での検証にも成功した。加えて、μが3以上3.009以下の場合については正値解の一意性を解析的に証明した。 精度保証付き数値計算を数学的な証明に用いている研究は、これまでにも多く報告されているが、それらの研究のほとんどは方程式の局所的な性質に関するものであり、本研究のように方程式の大域的な性質を証明した結果はほとんど知られていない。それだけに、数値的検証法によってNekrasov方程式の正値解の一意性が証明されたという結果は、それ自体が数学的に重要である上に、数値的検証法の有効範囲を拡張することが出来たという点においても非常に意味がある。
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