まず、アメリカ合衆国の被害弁償命令に関する立法、判例、運用及び改革提案についてさらに検討を行った。これにより、被害弁償命令が、被害に着目をし、被害填補の目的を有している点で、従来の刑罰、特に罰金刑とは異なっているものの、刑罰の公正さを維持するために、被告人の経済状態などに代表される犯罪者側の事情をかなり考慮する点に罰金刑などとの共通点があることを理解した(雑誌への掲載が確定)。そして、ここから、(1)犯罪の重大性をどのように量定するべきかという問題と、(2)行為者の経済状態などの斟酌をどのように額に反映させるべきかという問題の2つを区別して検討する必要があると考えるに至った。その上で、(1)については、金銭評価という身近な方法を排斥する点で妥当でないのではないかという視点から、日数罰金刑における日数による評価について批判的に検討を行った。また、金銭評価の方法の問題だけでなく、インフレ時又はデフレ時の対応が課題となると考えられたため、ハイパーインフレを経験した1920年代のドイツの罰金刑改革の状況を調査した。他方、(2)については、いかなる原理に基づいて行うべきかが課題となると考えられたため、日数罰金刑の日額の量定に関する立法経緯及び議論を考察した。 さらに、没収も含めて財産的制裁を包括的に検討する観点から、近時、下級審の判決が分かれており、実務上の関心も強いと思われる、規制薬物の密輸入において経費として支給された航空券の必要的没収の可否という麻薬特例法の判例について、刑法典中の没収規定との一貫性に配慮しつつ、研究を行った(雑誌への掲載が確定)。
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