H13年4月より岡山大学大学院医歯学総合研究科に所属し、癌特異的遺伝子治療の開発をテーマに研究に取り組んでいる。14年度の研究内容であるが、癌細胞を特異的に殺傷するTRAILを発現するアデノウイルスベクターAd/PGK-TRAILと癌抑制遺伝子p53を発現するベクターAd/p53、アポトーシス促進遺伝子baxを発現するベクターAd/PGK-Baxを用い、かつ腫瘍特異的な遺伝子発現を可能にする腫瘍特異的プロモータであるhTERTプロモータを用いたアデノウイルスベクター(Ad/hTERT-GV16)との組み合わせによる治療を、胃癌細胞株を中心に各種細胞での反応を検討した。hTERTプロモータによる遺伝子発現では非特異的プロモータ(PGK)と比べると、発現が弱く殺細胞効果は若干弱いが、正常細胞での影響はやはり腫瘍特異的プロモータhTERTにより、軽減できることが分かった。p53遺伝子はほとんどの胃癌細胞に殺傷効果を示したがMKN45胃癌細胞は抵抗性であった。このMKN45細胞にin vitroの実験系でTRAIL、Bax遺伝子を導入したところBaxの方が強力であった。p53低抗性胃癌細胞株MKN45を用いてマウスでの皮下腫瘍モデル、腹膜播種モデルを作成し、Baxによる遺伝子治療をp53遺伝子治療との比較治療実験を行った。Bax遺伝子治療はp53の治療より特にp53低抗性株においてはその優位な殺細胞効果が確認できた。腹膜播種モデルではAd/PGK-Baxの腹腔内投与により治療実験を行ったが、腹膜播種巣の数、重量ともにコントロール治療群、p53治療群よりBax治療群に優位な治療効果を確認した。しかし、宿主臓器にはあまり毒性がみられず、今回の治療モデルにおいては腫瘍特異的プロモータを組み込む必要性はないと思われた。その他、当大学付属病院で行った臨床での遺伝子治療を踏まえ、肺癌遺伝子治療の現況に関しての総説を誌上報告した。以上が当年度の活動である。
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