研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続きプラジュニャーカラグプタの主著『量評釈荘厳』のサンスクリット語写本他諸資料に基づくテキスト校訂作業を行い,かつ,該当箇所の英訳注を施した.具体的には,ミーマンサー学派からの全知者性批判とそれへの応答から成る『量評釈』vv.29-33に対する注釈箇所を検討し,以下の点を解明した(発表は次年度を予定している). (1)『量評釈荘厳』で批判される対論者の見解は,クマーリラの『シュローカ・ヴァールッティカ』,シャーンタラクシタの『真実綱要』から抽出される『ブリハット・ティーカー』の断片,さらにラトナキールティの『全知者証明』と比較することにより,その大部分をクマーリラ説の改変として捉えることができる. (2)副注釈者ジャヤンタの同箇所への注釈には,クマーリラの『シュローカ・ヴァールッティカ』codana vv.110-140の主要な詩節が引用されている. (3)プラジュニャーカラグプタが提示する<主要な人間の目的を知る方><認識手段によって浄化された全ての真実を知る方>という表現は,従来,ジュニャーナシュリー等が用いる<宗教的真理に関する全知者><ありとあらゆる事物に関する全知者>の原型となるものと看做されてきたが,その対応関係は厳密には成立しない. また,ブッダの全知者証明と表裏の関係にあたる主宰神論批判の箇所についても,テキスト校訂・英訳注作業を継続しており,今年度はサンスクリット語・チベット語訳・該当箇所への諸注釈の情報をデータベース化することができた.最後に,8月来,ウィーン大学にて資料調査を行い,仏教論理学研究の碩学Ernst Steinkellner教授,Eli Franco博士とも親交を結ぶことができ,また同アカデミー主催のArbeitkreisにおける具体的なテキスト校訂作業の現場に立ち会うことができた幸運もここに報告する.
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