本年度は、カリブ海に形成された国境を超えた交易、すなわち当時のスペイン側からすれば密貿易に当たる商業行為に焦点を絞って分析を進めた。研究の手順として、まず大西洋貿易における各国勢力の参入状況を、収集した二次文献をもとにして検討することで、大西洋貿易と密接にかかわるカリブ海貿易の動向を貿易全体の動きの中で捉える作業を行った。つぎに、この作業を基礎として、カリブ海に関するスペイン側資料、とくにユカタン植民地に関する史料をデータベース化し、解析作業をおこなった。その次に、スペイン側の資料と比較検討するべく、オランダのアムステルダム市公文書館にて同国のカリブ海におけるスペインとの貿易活動に関する史料の収集を行った。なお、以上の作業において必要な、文献購入、データベースプログラム、オランダでの調査費用を当研究費補助金より支出した。 以上のような研究作業を通じて明らかになったのは三点で、(1)17世紀を通じて密貿易の担い手はポルトガル、オランダ、イギリス、フランスという順番で交代していること、(2)カリブ海で各国が密貿易を展開は、主としてスペイン本国における各国の貿易活動の状況と反比例しており、スペイン本国での活動が困難になったり、その貿易のコストが上昇した場合に、各国のカリブ海での貿易活動が顕著になる。(3)このうちオランダ商人のカリブ海における貿易の形態としては、スペインの貿易管理者の目を盗んで行われる住民との非公認な貿易手段よりも、スペインの官僚を買収しておこなわれる半ば公認された貿易手法が好まれた。なお、これらの研究成果の一部は、2002年のカリブ学会(AMEC)の年次大会で報告したほか、メキシコの研究誌へ掲載されることが決定している。
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