本年度は、主に超弦理論に基づく宇宙論における特異点回避の問題、密度ゆらぎの進化を中心に研究を行った。特に、2枚のブレーン同士の衝突により、ビッグバンが始まったとするエキピロチック宇宙において、量子補正を考慮することにより、特異点を持たないような解の構成に成功した。また同モデルでの密度ゆらぎのスペクトラムについての詳細な計算を、アメリカとイタリアの研究者とともに調べた。さらに、ロシアの研究者とともに、超紐理論の低エネルギーでの有効作用に基づく理論において、時空に非等方性がある場合の特異点の性質について完全な分類を行った。この研究は、特異点を持たないような宇宙モデルを構成する上で、重要な示唆を与えると期待される。また、宇宙初期において、ストリングの理想気体に満たされた系における宇宙進化についても考察し、3次元空間だけを大きくさせ、残りの次元を小さく保つようなモデルを構成することが可能であることを示した。 また、インフレーション理論において、2つのスカラー場が存在する系での密度揺らぎについて考察した。特に具体的な2つのダブルインフレーションモデルにおける断熱揺らぎ、等曲率ゆらぎ、およびその相関についての詳細な数値計算を行い、近似を用いた解析的な結果との比較を行った。特に、超重力理論に基づいた、負の曲率を持つようなダブルインフレーションモデルにおいては、断熱、等曲率ゆらぎの間の相関が非常に大きくなることを見いだした。この結果は、今後の観測結果との比較からも重要な示唆を与えると期待される。また、インフレーション直後の再加熱期における曲率のゆらぎの進化についてもイギリスの研究者と解析を行い、どのような場合に揺らぎの増幅が起こるかを明らかにした。
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