本年度は、鳥類のNucleus Taeniae(Tn:哺乳類の扁桃核に相当する脳部位)の機能を調べるためにキンカチョウを用い、トレーシング実験と行動実験を行った。 トレーシング実験では、逆行性トレーサーであるRITCをTnに注入し、Tnと神経細胞1個で連絡している脳領域の分布について調べた。その結果、先行研究において報告されていた聴覚領域や海馬などの脳領域とのTn間の連絡を確認しただけでなく、Tnが視覚領域(Rt)、小脳内核・小脳中核などの領域とも連絡があることを発見した。この結果は、鳥のTnは哺乳類の扁桃核同様に聴覚のみならず視覚領域とも直接の投射があること、つまり、視聴覚情報がTnに直接入出力されることを意味している。また、Tnと連絡のある領域の多くがステロイドホルモンやセロトニンのレセプター分布域と重なっていることにも気づいた。このことは、Tnが性行動やその他の社会行動を制御する回路の中心を担っている可能性を示唆している。 行動実験ではオスの両側のTnをイボテン酸を注入して破壊した。そして、Tnを破壊したオスとコントロールオスをメスに提示し、メスがつがい相手をとしてどちらのオスを選ぶかを調べた。この方法により、社会性に関わる脳部位の破壊による影響を他個体が気づくか否かについて検証ができる。その結果、メスはコントロールオスをつがい相手として選ぶこと、コントロールオスもTnを破壊されたオスの行動の変化に気づくらしいことが明らかになった。その一方で、Tn破壊によってオスでは歌行動の発現頻度が低くなること、いくつかの性行動が通常では見られない文脈で出現することが確認されたものの、結果としてどの行動の変化がメスの選択に影響を与えたのかについて特定することはできなかった。このことは、Tn破壊が社会行動に影響を与えること、また、同種他個体の社会行動に対する厳しい審査の目を各個体が持っていることを意味している。 以上の結果をもとに、現在、これらのデータについて論文準備中である。
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