これまでの研究から、ヒャクニチソウの管状要素分化に先立って内生のブラシノステロイド量が増加すること、ブラシノステロイドは細胞外だけでなく培地においても存在し、増加することが明らかになっている。そこでヒャクニチソウの管状要素分化の誘導に必要である、オーキシンとサイトカイニンがこれら、分化に伴うブラシノステロイドの合成と分泌に関与しているのかどうかを明らかにするために、オーキシン・サイトカイニン濃度の異なる対照条件におけるブラシノステロイド量の測定を行った。 まず今回の定量では、かなり上流のステロール量も定量した。その結果、ヒャクニチソウで管状要素分化に先立って蓄積するブラシノステロイド量は植物で一般に見られる量の10〜100倍になるが、逆にステロール量は通常の植物より1/10〜/100程でしかないことが明らかになった。ブラシノステロイドの分泌に関して、細胞と培地に存在する割合はホルモン条件に関係なく物質ごとに一定であることがわかった。従って、ブラシノステロイドの培地への分泌は分化に関連したものではないことが明らかになった。一方、ブラシノステロイドの蓄積量はオーキシン・サイトカイニンによって大きく影響を受けることがわかった。多くのブラシノステロイドにおいて、オーキシン・サイトカイニンが存在する分化誘導条件において最も多くの蓄積量が測定され、特にティファステロール、6-デオキソティファステロールにおいて顕著であった。しかしながら、これらの下流のブラシノステロイドである6-デオキソカスタステロンはサイトカイニン依存的な増加が見られ、またカスタステロンは、ホルモン条件に関係なく、培養することでほぼ同レベル蓄積することが明らかになった。活性型と考えられるブラシノステロイドは、ブラシノライドか、その直前の前駆体であるカスタステロンである。分化が誘導されなくても蓄積するカスタステロンにどんな機能があるのか不明である。もう一つ、培地に存在するブラシノステロイドの機能も不明である。 しかし少なくとも、これまでの研究からブラシノステロイドの合成は管状要素分化に必須であることが明らかとなっているが、本研究によってその後のシグナル伝達の構築が分化のスイッチになっていることが示唆された。
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