細胞老化を超え通常より長い分裂寿命を示したマカクの延命細胞3系列のうち1系列は、p53のDNA結合部位に2ヶ所のアミノ酸置換を導入していたが、これらは別々の対立遺伝子上に存在することが明らかとなった。これにより、延命細胞3系列すべてにおいて野生型のp53を発現しているものはないことが判明した。延命細胞系列では、p53mRNA発現量は正常な細胞と同程度に低く、p53タンパクはnon-RIを用いた検出方法では検出限界以下であった。これら3系列とも、線維芽細胞のマーカーであるビメンチンを発現し、上皮系細胞のマーカーであるサイトケラチン18を発現していないことから、線維芽細胞由来であることが明らかとなった。以上より、線維芽細胞由来の細胞系列においては正常なp53を完全に喪失することが延命にとって重要であることが示唆された。 EBウイルスを用いて、マカクザルの細胞不死化と癌抑制遣伝子P53の関係を研究する上で、その比較対照の1つとして、ヒトにおけるEBウイルス関連の上皮系細胞の腫瘍である鼻咽喉癌の組織を用いて、p53異常について調べた。腫瘍組織で最も高頻度に異常がみつかるDNA結合部位を含むエクソン5-9について配列を明らかにしたところ、30検体のうち8検体で異常がみつかった(26.7%)。この頻度はこれまでの報告より高く、鼻咽喉癌の腫瘍形成においてp53機能喪失は重要であり、またEBウイルスの鼻咽喉癌の発達への関わりは、p53機能を喪失させる他の腫瘍ウイルスとは異なることが示唆された。
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