本研究は未解明の部分が多い鎌倉時代初期の密教思想解明の一端として、当時の代表的な真言僧の一人である道範の思想を中心に文献学的検討を行うことを目的とするものであるが、本年度は以下のような研究活動を行った。 1.昨年度の研究実績である、東寺で発見された道範著の新出写本(『貞応抄』断簡)に関し書誌学的検討を加え、その結果を第53回日本印度学仏教学会(於ソウル)で口頭発表を行った。(詳細な内容については、3月末に発行される『印度哲学仏教学研究』第51巻2号に掲載予定。)概要としては、新出写本は13世紀のものであるが、『大正蔵経』掲載本(仁和寺所蔵本)と同様に本文巻尾が中断される形で終わっている点、紙背がある点などが特徴として挙げられる。 2.昨年度に引き続き、東寺観智院所蔵の道範著写本のうち、8点ほどの書誌調査を行った。その結果、これまで検討されたことが無く、現存写本の極めて少ない『開宝決疑抄』という文献について、その内容を掌握することができた。これに関しては、今後『般若心経必鍵開宝抄』との比較検討を行いつつ、来年度に学術発表を行う予定である。 3.滋賀県・坂本の叡山文庫に所蔵されている道範関係の文献に関し、書誌調査を行った。 その結果、これまで存在が指摘されたことのない『秘密念仏鈔』の室町時代写本があることが明らかになった。これについては今後各種写本と校合を行い、テキスト校訂を行う予定である。
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