今年度の研究で得た主要な知見としては、以下の2点が挙げられる。 1.従来の研究では海老名の政治思想の「日本主義」的、「帝国主義」的側面に着目するあまり、大正期以降を考察時期から除外するか、あるいは彼を無節操な「大正デモクラシー」への追随者であったとしてきた。それに対して、海老名自身が(宗教思想家のみならず)政治思想家としてデモクラシーの思潮をつくり上げ、リードする役割を果たしていたことを確認した。西洋像によって大きく規定されている海老名の政治思想においては、第一次大戦の勃発は思想的大事件であり、彼はその帰趨の中から、英米主導のデモクラシーの機運を読み取ったのである。そしてそれを、彼自らが主筆を務める雑誌『新人』を中心に大々的に展開したのであった。 2.海老名が晩年に展開した「新日本精神」論については、従来はほとんど触れられず、稀に触れられる場合でも、その名称がもたらすイメージから彼の思想の「国粋主義」的性格を示すものとされてきた。しかしながら、「新日本精神」論において海老名が儒学思想史などを素材に主張したのは、日本思想史が<外部>に対して開かれたものとして展開してきたということであった。すなわち、時局が戦争へと向かう中で唱導されていた排他的・排外的な「日本精神」論を批判するということこそが、「新日本精神」論で彼の意図したことだったのである。海老名の思想を「日本主義」的、「国粋主義」的、「神道」的と論定する先行研究の見解は、この点でも覆されなければならないというのが、本研究の立場である。 なお、これらの成果は公刊される予定である。
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