平成14年度、私は主に下に述べるような2つの研究課題を推進した。現在までに得られている成果をそれぞれ述べたいと思う。 最初の課題は、軽元素(リチウム、ベリリウム、ボロン)進化と宇宙線の役割に関する研究である。軽元素は宇宙線による原子核反応で生成され、宇宙誕生から現在に至るまで増加し続けている。しかし、銀河初期にはリチウム6同位体量の観測値が理論値を大きく上回り、未解決の課題として残されていた。私達は、「銀河系形成に伴う衝撃波で加速された宇宙線によるリチウム6生成」過程を導入することにより、この矛盾は解消されることを指摘した(Suzuki & Inoue 2002)。さらに、今後のリチウム6の観測の進歩により、我々の天の川銀河形成の証拠を、近い将来世界で初めて捉えることが可能であるという、理論的予測をした。このシナリオに基づくリチウム6の観測提案(筆頭観測者は井上進氏)が国立天文台ハワイのすばる望遠鏡に採択された。 第2の課題は、太陽コロナの加熱、太陽風加速に関する課題である。わたしは、コロナ加熱機構としてはこれまで重要とは考えられていなかった、音波(縦波)モードの波の熱化による加熱を取り入れたモデル計算を行なった。近年、磁気リコネクション過程により引き起こされると考えられるフレア現象の中でも小スケールのものが、光球表面だけではなく、上空のコロナ内でも音波を生成しているという指摘がなされているのを手がかりに、私は、このコロナ内で励起された音波の役割の吟味を行なった。その中で、音波は100万度までコロナを加熱し得るが、太陽風加速にはより減衰長の長い(減衰の遅い)他の加熱、加速源との協力が必要であるという結論を得た。言い替えれば、音波モードは無視し得ないコロナ加熱機構であり、今後、さらに緻密なモデル化と定量性の検討が必要であることを示唆している(Suzuki 2002)。
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