今年度は、(1)地方議員・教育委員会事務局職員へのアンケート調査の分析、(2)教育長人事における首長・議会の影響力分析、(3)地方教育行政における首長・議会の役割に関する理論的検討、の3点に関して研究を行った。得られた知見は大要以下の通りである。 1.アンケート調査では、教育委員会制度に対する評価とその規定要因について分析を行い、教育委員会制度はおおむね肯定されつつも、議員の中には否定的な意見が少なからず存在していること、また議員が教育政策における自らの影響力をどう評価するかによって、教育委員会制度への評価が規定されていることを明らかにした。 2.教育長人事の分析では、首長・議会の法的権限の相違が実際の人事にどのような影響を及ぼしているのかについて、都道府県・政令指定都市を対象として検討を行った。その結果、教育長が教育委員を兼ねるかどうかによって首長・議会の法的な権限は異なるとともに、教育長の任期の有無も異なることを指摘した。また、都道府県と市町村の教育長で属性や在職期間が異なることは、組織規模や職務権限だけではなく、教育長選任の際の制度的な相違によってもたらされていることを実証的に明らかにした。 3.理論的検討については、教育委員会制度の安定は国だけではなく首長・議会にとっても合理的な選択ではなかったのかとの仮説を提示し、その仮説を分析するために、取引費用アプローチと経路依存性といった、経済学・政治学などで用いられる理論枠組を用いる必要性を提起した。またその仮説と理論枠組が近年の教育委員会制度論や教育行政研究にもたらす示唆についても言及した。
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