研究課題
暗黒物質は銀河中にマックスウェル分布していると考えられ、地球上では銀河の回転のため、『暗黒物質の風』が吹いている。この風向きをとらえるための暗黒物質用方向感度検出器として、原子核の反跳方向によって発光量が異なるスチルベン単結晶シンチレーターの開発を行ってきた。本年度はこれまでの10倍のサイズのスチルベン結晶を導入し、実際に暗黒物質探索のための測定を行った。まず、本実験用に低バックグラウンド仕様の光電子増倍管を開発した。前年度まで行っていた暗黒物質探索実験で用いていたフッ化物ボロメーターの放射線シールドを利用して、スチルベンと光電子増倍管を使った準備実験を行い、光電子増倍管からの放射線バックグラウンドを一段と抑制する必要があることが明らかになった。そこで、やはり低バックグラウンド仕様のNaIシンチレーターをスチルベンと光電子増倍管の間に導入した。そして、2003年11月より、神岡地下実験室において、116gのスチルベンを用いて暗黒物質探索実験を行った。2003年12月までの観測で、暗黒物質の風向きによる発光量の変化をとらえることはできなかった。しかしこのことから、陽子とneutralinoのスピンに依存しない相互作用の断面積対する上限値を得た。50GeVの質量をもつneutralinoに対して5.6pbという上限値である。この結果は、暗黒物質の方向に関する特徴から求められた最初の制限である。結晶は小質量で、バックグラウンドレートがまだ高いため、これまで行われた実験から得られている制限には及ばないものの、方向感度が暗黒物質を探索する上で有効であることを実証することができた。さらに、感度を高めるためにフッ素を含んだオクタフルフルオロナフタレン結晶を用いる実験の提案を行った。
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