植物のプログラム細胞死機構をヒャクニチソウ道管細胞分化系およびシロイヌナズナを用いて解析した。昨年度私は道管細胞が死ぬ際に自らの液胞を崩壊させ、加水分解酵素を放出して核を20分以内に完全分解することを示した。そこで今年度は液胞崩壊の機構を調べるために、液胞崩壊とこれまでに関与が示唆されているカルシウム、カルモジュリン、活性酸素、ブラシノステロイドとの関係を詳しく調べた。その結果、道管前駆細胞がブラシノステロイドを受容し、活性酸素を局所的に発生し、その後カルモジュリンが働いて液胞の崩壊を含めた道管細胞分化が進行することを明らかにした。また細胞質カルシウムイオン濃度を測定するためにカルシウム指示タンパク質であるカメレオンの植物用コンストラクトを作成した。ヒャクニチソウ培養細胞では遺伝子導入効率が低く解析が困難であったのでシロイヌナズナに形質転換しているところである。 また、動物や細胞性粘菌などの細胞死時にミトコンドリアから漏出し、細胞死を誘導するApoptosis-inducing factorのシロイヌナズナホモログと思われる遺伝子を単離した。この遺伝子にGHPを融合したコンストラクトを作成し、葉で一過的に発現させ、これがミトコンドリアに局在することを確かめた。現在は道管細胞、および他の植物細胞死でこの因子がミトコンドリアから漏出するかどうかを確かめるために、シロイヌナズナに形質転換しているところである。また、この遺伝子が2つの転写開始点を持ち、それらを使い分けて長短2種類のmRNAを作ることを見いだした。さらにGFPとの融合タンパク質を作成し、2種類のmRNAから作られる長短2種類のタンパク質のうち長い方がミトコンドリア、短い方が葉緑体に運ばれることを見いだした。1遺伝子が転写開始点を使い分けて2種類のタンパク質を作りミトコンドリアと葉緑体に送り分けている初めての例となった。
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