本年度は、昨年一月から引き続きタイに断続的に長期滞在してフィールド調査を行った。フィールド調査の概要は下記のとおりである。 四月から六月にかけて、バンコクで産業に関連する政策および技術移転プロジェクトについてのインタビュー調査を行った。七月には本拠地をフィールド調査地であるコラートに移して、日系企業の現地工場、県産業事務所、地元企業の工場、県商工会議所、地元の職業教育機関(特に工業高専)でインタビュー調査を行い、当地の概況の把握に努めた。また十一月以降は、地域におけ職業教育の実態と学校レベルでの技能形成の過程を明らかにすることを目指して、地元の工業高専で週に一回程度の参与観察を開始した。 上記のように本年度十二月までの調査は、高専における参与観察を除けば、昨年度に引き続きタイおよびコラート県の産業の概況を把握することを目的に行われた。その結果、次のような状況が明らかになった。(1)地元の中小企業と日系を中心とする大企業との間には、取引関係のような交流がほとんど見られない。(2)高専などの職業教育機関の卒業生の多くは、外資系の大企業に吸収されており、職業教育は地元の中小企業への技術の普及に対して限られた役割しか果たしていない可能性がある。(3)中小企業の多くは内部および企業間の分業が未発達であり、高度な分業に基づく計画化された生産を行う外資系企業とは用いる技術の体系に違いがあると考えられる。 上記の仮説を検証するために、一月からは中古トラクターの再生と農業機械の製作を行う小規模な工場を選び、高専での調査と平行してこの工場で参与観察を開始した。 本年度は三年間の調査計画の中盤に当たることもあり、ほとんどの時間が調査に割かれたが、その一方で研究成果の発表も行った。11月には『超域文化科学紀要』7号にこれまでの研究成果を「産業化と学習過程」というタイトルの元にまとめた論文が掲載された。
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