前年度に引き続き、研究計画にある言語獲得に伴い知覚に変化が起こる音韻について特に視聴覚マッチングに着目し、研究を進めた。 (1)二画面選好注視法を用い、5ケ月齢乳児の子音視聴覚マッチングについて検討した。その結果、5ケ月齢乳児においては子音をマッチングできるという示唆は得られなかった。これは先行研究で得られている知見と一致している。この結果を2002年4月トロントで開催された、International Conference of Infant Studiesにて発表した。 (2)従来の二画面選好注視法による実験に加え、新たな手法(期待背反法)を考案・実施し、手法の妥当性と結果の一貫性を検討した。その結果、二画面選好注視法と期待背反法で一致した結果が得られ、期待背反法を乳児の視聴覚マッチング実験の手法として用いることが可能なことが示唆された。また、期待背反法を用いたことで、乳児は常に視聴覚的にマッチしている刺激に長く注意を払うことが確認された。 (3)上記の2つの手法により8ケ月齢乳児の母音、及び子音要素(唇震音・口笛音)の視聴覚マッチングを検討した。その結果、母音「あ」はマッチング可能だが、母音「い」はマッチングしていないことが示された。また新しい知見として、唇震音はマッチング可能だが、口笛音はマッチングしていないことが示された。さらに本研究で得られた日本人乳児での結果はこれまでの英語圏の乳児を対象とした結果とは異なっており、母語による視聴覚マッチングへの影響が示唆された。 (4)この結果を考える上で、8ケ月齢乳児の母親50人を対象にアンケートを実施し、8ヶ月齢乳児の喃語において、視聴覚マッチングが可能な母音「あ」と唇震音が、マッチングのできない母音「い」や口笛音に比べ高い頻度で出現することが示された。このことから、マッチングのできる音とできない音では乳児の発話経験に差があることがわかった。 (2)、(3)、(4)については8月にミラノで行われるXI European Conference on Development Psychologyで発表予定であり、また、適宜学術雑誌に投稿する予定である。
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