ミトコンドリアリボソーム(ミトリボソーム)の12S rRNA上のA1555G変異は、アミノグリコシド(AG)誘発性難聴の症状を示す。AGは、健常人でも投与量が多いと副作用として難聴をもたらすことが知られているが、A1555G変異がある場合は低投与量でも不可逆的な難聴を誘発する。AGは原核生物型リボソームと結合し、誤翻訳を引き起こす抗生物質である。ミトリボソームは原核生物型であるため、AGの標的となることが難聴の直接の原因ではないかと考えている。A1555G変異をもつ患者の細胞核をHeLa核に置き換えた細胞(サイブリド)を使用し、AG存在下で培養したところ、変異をもつ細胞ではより低AG濃度で生育阻害が起こり、タンパク質合成能の低下、呼吸鎖活性の低下も見られた。このことからAGはミトコンドリアを標的にしており、A1555G変異はAG感受性を高めることがわかった。 大腸菌リボソームにおいてA1555位は16S rRNAのG1491位にあたり、AG感受性を示す。つまり大腸菌野生型は遺伝型、表現型ともにA1555G難聴患者ミトコンドリアのモデル生物とみなすことができる。そこでG1491A変異株(健常者型)を作製し、大腸菌野生株(患者型)とAG感受性を比較したところ、予想通りG1491A変異株はAG耐性であることが示された。さらにβ-Gal assayより、野生株はAG存在下で誤翻訳が誘発されるが、G1491A変異株の場合、その度合いが小さいことが観察された。リボソームタンパクS12は翻訳の精度を調節し、AG感受性を支配していることが知られているため、AG耐性変異を導入したミトコンドリアS12タンパク質を大腸菌で発現させた。発現株ではAG感受性が若干ではあるが緩和されることが観察された。今後は、この系をA1555Gサイブリドに応用し、細胞レベルで検証していく。
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