秋田県のブナ天然林において、以下のフィールド調査を行った。 毎木調査の範囲を1haから2haに拡大し、広範囲での樹木個体群構造を調査した。また、群落の垂直構造から各樹種の生活型を明らかにした。そして、ササ被覆下での稚樹センサスの結果と併せて各樹種の一連の生活史を通した個体群構造の変化を明らかにし、群落の更新履歴を推定した。 広範囲の毎木調査から、栄養繁殖により連続的な個体群構造を示す樹種と、単幹が比較的連続に存在する樹種、そしてサイズが大きい単幹が断続的に分布する樹種の3タイプが存在した。ササの被覆下での稚樹密度は非常に低く、どの樹種もササにより更新が制限されていたことから、この群落では過去に大規模な更新の機会があったと考えられた。そして、個体群構造の違いは更新時の戦略の違いに起因すると予測された。すなわち、更新の機会をある一定の期間利用する樹種と、短期間限定的に利用する樹種という更新戦略の違いを反映していると考えられた。 もしこの群落がササ一斉枯死を契機として更新しているのなら、次にササが一斉枯死するまでに繁殖可能レベルまで成長することが可能でなくてはならない。そこで、各樹種のライフスパンを推定するために、最大樹齢を調査した。亜高木から高木に成長する樹種について、最大クラスの直径を持つ個体を各樹種5本前後選定し、成長錘を用いて年輪解析を行った。高木種の最大樹齢はおよそ100年といわれているササの生活史よりも長い樹種がほとんどであった。一方、亜高木の最大樹齢は高木種よりも低い樹種が多かった。しかし、アオダモやウワミズザクラのように萌芽によって株の寿命を延ばすことで個体数を維持できる可能性が高くなると考えられた。 これまでの調査から、実生から成木に至るまでの各樹種の個体群構造を把握することができた。しかし、林冠ギャップ内での稚樹再生過程を林分スケールでみると、今までササが枯死したサイトで調査した各樹種の更新メカニズムとは異なる傾度で更新ニッチが形成されている可能性が示唆された。 来年度は稚樹の生残過程における単葉あたりの光合成能力、各樹種に特有なアロケーションパターン、および成長特性における形態的可塑性といった要因を考慮し、林分スケールでの稚樹の更新ニッチを明らかにする予定である。
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