「研究実施計画」に記した、研究の目的(1)「近世前期・中期朱子学者の伝記及び思想研究」の成果として、(1)「福岡藩儒竹田春庵と朝鮮通信使」(「語文研究」93号平成14・6)、(4)「水戸祇園寺蔵『野節文章』大概(三)」(「文献探究」41号平成15・3)を発表した。(1)では、これまで九州大学附属図書館・福岡県立図書館に分けて保管されてきた福岡藩儒の家・竹田家伝来の資料「竹田文庫」を初めて網羅的に精査し、焦点を竹田家初代・竹田春庵が携わった正徳度における朝鮮通信使応接関連の資料に絞って、新出の通信使資料を提示するとともに、通信使来朝をめぐって福岡で展開された文学上の交流、それが中央の文壇の動向といかに連動しているかを解明した。(4)では、焦点を林家門人の筆頭・人見竹洞と水戸藩に招聘された帰化僧・東皐心越との文事を介した交際に絞り、心越開山の祇園寺に伝来する竹洞の心越宛書簡・詩作を註釈するという作業を通して、江戸詩壇における活況の実状を明らかにした。 また研究の目的(3)「従来の漢文学史の再検討」の成果として、(2)「荻生徂徠『〓園随筆』の反響」(「文献探究」40号平成14・8)、(5)『長崎県立長崎図書館蔵 善本・稀書展解説』(若木太一氏と共編 長崎大学環境科学部・長崎県立長崎図書館平成14・10)を発表公開した。本目的では朱子学以外の儒学流派の文学活動を視野にいれるために、(2)では、殆ど著述が残らない京都の古学派・荒川景元の新出資料『荒川景元答問』、なかでも江戸の古文辞学派・荻生徂徠の著述『〓園随筆』を批判する記事を紹介分析した。(5)は、長崎図書館所蔵の従来未公開の古典籍約二万冊を精査し、善本を市民に公開することを目的としたが、これらのうち近世前期における京都の山崎闇斎を祖とする崎門派に関する新出資料を多く報告した。(2)(5)によって従来の漢文学史の欠を補い、新たな研究視野の基盤を構築しえたと考える。
|