濾胞細胞から分泌される卵成熟刺激ホルモン(MIH)によって、脊椎動物卵成熟の引き金が引かれる。MIHは細胞膜上に存在する受容体に作用し、シグナルが卵内に伝達され、最終的に卵成熟促進因子(MPF)が形成されて卵は成熟する。哺乳類では、卵成熟阻害物質(OMI)によって卵成熟が抑制されており、その抑制が解除されることで卵は成熟すると考えられていた。最近、哺乳類においてもMIHに相当する物質(MAS)が同定された。そこで今回、哺乳類であるマウスを用いて、MIHの下流で働く機構について、PI3キナーゼに注目して次の実験を行った。1)PI3キナーゼ阻害剤存在下で、自発的卵成熟、濾胞細胞刺激ホルモン(FSH)誘導卵成熟、MAS誘導卵成熟を行った。自発的卵成熟はOMIから解放されて刺激なしに卵成熟が誘起される過程、FSH誘導卵成熟はFSHが濾胞細胞に作用し濾胞細胞からの分泌物質が細胞膜に作用して卵成熟が誘起される過程、MAS誘導卵成熟は直接MASが細胞膜に作用して卵成熟が誘起される過程である。2)上記1)の条件下でMAPキナーゼ活性とMPF活性を測定した。その結果、1)FSH誘導卵成熟とMAS誘導卵成熟はPI3キナーゼ阻害剤によって濃度依存的に阻害され、自発的卵成熟は阻害されなかった。このことから、細胞膜に存在する受容体の下流でPI3キナーゼが卵成熟過程で機能していることが示唆された。2)FSH誘導卵成熟とMAS誘導卵成熟におけるMAPキナーゼ活性とMPF活性はPI3キナーゼ阻害剤によって濃度依存的に阻害され、自発的卵成熟では阻害されなかった。このことから、PI3キナーゼの下流でMAPキナーゼ、MPFが機能していることが示唆された。以上の結果は、マウス卵成熟過程においてMIH刺激が受容体からMPFへと伝達される途中に、PI3キナーゼとMAPキナーゼが機能することを示し、解析が遅れている哺乳類卵成熟機構について新しい知見を提供するものである。
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