今年度は、主に海外の学術雑誌に投稿する英語論文を書き進めた。ここではホロコーストにより所有者が殺害され相続人が不在となったユダヤ人財産が、戦後フランスとドイツでいかに扱われたかを比較し、そこから浮かび上がる国家のあり方、その自己定義について考察した。現在の時点では投稿前に海外の専門家の意見を聞くために、下読みをしてもらう段階にある。この論文のネイティブ・スピーカーによる校正に、15年度の研究費の三分の一以上を使用した。投稿先はThe Journal of Israeli Historyを検討している。また、相続人不在のユダヤ人財産こついては、ドイツに関する郡分を『ユダヤ・イスラエル研究』の2003年号に発表した。 更に、研究成果の社会への具体的な還元を目標に、大学生レベルを対象とした入門書、(仮題『戦後ドイツのユダヤ人杜会』、白水社、石田勇治監修『戦後ドイツ史の歩み』の第五巻、2005年刊行予定)を書き進めた。これは戦後ドイツのユダヤ人杜会の変遷を現在に至るまで追うものであり、このテーマを扱うものが今まで存在しなかっただけに、その意義は大きいと思われる。これまで、識者(しかも世界的に見てもごく限られた数の専門家)を対象とした論文を書いてきたが、これまでの研究の総括としてより一般的な書物を世に問うことにより、科学研究費による助成の目的が私なりに達成できるのではないかと考える。
|