研究概要 |
立体選択的グリコシル化反応の開発は、糖質化学のなかでも重要な課題である。なかでも、隣接基関与を利用できない2-デオキシ糖の立体制御は未だ問題点の残る解決すべき課題である。一方、1-シアノ糖は、シアノ基を容易に他の官能基に変換できるため、様々なC-グリコシド類の有用な合成中間体として利用されている。最近私は、パラジウム触媒を用いた無保護D-グルカールとシアン化トリメチルシリルとの立体選択的C-グリコシル化反応により、直接無保護1-シアノ糖がα選択的に得られることを初めて報告した。そこで、グルカール以外の糖質化合物を用いた立体選択的C-グリコシル化反応について様々な検討をおこなった。 まず、無保護D-グルカールを用いたC-グリコシル化反応の条件を、D-ガラクタールに適用できるか調べた。その結果、1 mol%の酢酸パラジウム存在下、アセトニトリル中で無保護ガラクタールにシアン化トリメチルシリルを80℃、18時間作用させ、その後1規定塩酸で処理すると、目的の無保護2,3-不飽和-1-シアノ糖が収率72%で、α体とβ体の比率が90/10とα体が優先して得られた。先の無保護D-グルカールの反応(収率93%、α/β=75/25)と比較すると、α選択性が大きく向上した。また、本反応系は、L-ラムナールにも適用でき、収率87%、α/β=52/48で無保護1-シアノ糖を与えた。これらの結果をまとめてChirality誌に報告した。 本反応は、無保護グリカール類に広く適用できる有用な1-シアノ糖合成法であり、保護基を使用することなく直接無保護シアノ糖を得ることができる最も効率の良い方法である。しかしながら、立体選択性に関しては、必ずしも満足のいくものではない。今後、新しい触媒の開発や配位子を含めた添加剤の効果などについて検討をおこない、更なる選択性の向上と反応の効率化を図りたい。
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