まず、国内で教室指導を受ける韓国語話者に対して横断的な発話調査を実施し、昨年度実施した同様の条件の中国語話者の横断的な発話調査の結果との比較を試みた。その結果、母語は否定表現の習得段階そのものに影響を与えることはない可能性が示唆された。また、約1年半に渡って実施された縦断的な発話調査の結果をまとめた。この調査は、否定を表明する表現の特徴を記述し、その使用の推移を詳細に明らかにすること、及び母語による相違点を明らかにすることを目的に、国内で教室指導を受ける中国語話者(初級〜中級)、韓国語話者(初級〜上級)、タイ語話者(初級〜中級)に対して、半年ごとに3回実施された。その結果、最も初期には、否定辞を使用しないで否定を表明する傾向がみられ、否定辞は、「ません」「ない」>「ないです」「じゃない」「くない」>「じゃないです」「くないです」>「ではない」の順で出現する可能性が認められた。また、学習者の母語は、否定辞の出現の順序と特徴には影響せずに、誤用の種類に影響を与える可能性が示唆された。 次に、中国語、韓国語話者に現れた「なかった」「ていない」の誤用に関して、これらが否定表現のみならず、肯定表現「た」「ている」にも同様に現れるのかを明らかにするために、両母語話者の発話資料を再分析した。その結果、母語にかかわらず、肯定表現より否定表現のほうが過去のテンス、及びアスペクト表現の不使用率が高いことが分かり、否定表現に、より特徴的に現れる誤用である可能性が認められ、否定表現の習得要因を探る上で重要な結果を得た。ただし、この現象は、上級レベルでは韓国語話者よりも中国語話者に特徴的で、ある誤用が比較的長期間残るという意味での母語の影響が考えられた。 日本国外で教室指導を受けている学習者、及び自然習得者に対しては現在引き続き調査を実施中である。
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