本年度は、昨年度に得られたFe(CN)_6^<4->のCN伸縮振動を対象としたフォトンエコーの実験データの解析を行い、これらの研究成果を論文にまとめ、国際学会、国内学会で発表した。Fe(CN)_6^<4->のCN伸縮振動のうち、赤外活性のモードは分子の対称性から3重に縮退しており、それぞれの振動方向は互いに直交している。まず、過渡回折格子法により、D_2OやH_2O中のFe(CN)_6^<4->のCN伸縮振動を励起した場合の振動エネルギー緩和過程を検討した。振動励起状態の寿命はD_2O中で23ps、H_2O中で3.7psであり、顕著な溶媒の同位体効果が見られた。これは振動エネルギー緩和過程において、溶媒へのエネルギー移動過程が大きく寄与していると考えられる。一方、フォトンエコーの実験結果の解析から、D_2OやH_2O中での溶媒和過程が1.4-1.5psの時間スケールで起こっていることを示し、同位体効果は小さいことを見出した。N_3-やSCN-の反対称伸縮振動を励起した場合と比較したとき、時定数には大きな違いが見られなかったことから、溶媒和ダイナミクスにおける溶質の振動モードの性質の影響は小さいと考えられる。メタノール中のOCN^-やSCN^-の反対称伸縮振動についての実験結果と総合して、振動の遷移エネルギーの揺らぎの時定数は溶媒のみで決まり、溶質の振動モードの性質にそれほど依存しないという結論を得た。 さらに赤外光源の安定性を向上するため、波長可変のパルス光を発生させる光パラメトリック発生、増幅器の構築、改良を行い、揺らぎが1%以下の安定性をもつ赤外パルス光の発生に成功した。これにより、過渡吸収などのヘテロダイン検出の信号測定が可能になった。現在は、測定系の構築を進めているところである。
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