研究概要 |
今年度はネパールの政治情勢の悪化に伴い,ネパールでの野外調査は断念することとなった.そこで,ヒマラヤ山脈と同様に,2つの地塊が衝突することによって変成帯が上昇している北海道中軸部地域において野外調査を実施し,その地質構造,衝突メカニズムを明らかにするとともに,ヒマラヤ山脈との類似性を比較する研究を行った. 1.北海道日高変成帯の前縁山地である夕張山地および日高山脈西縁部地域を広域に調査し,延べ1000km^2に及ぶ範囲の地質図,柱状図を作成し,同地域の地質構造を検討した.その結果,本地域には東から西へと双珠別衝上断層,夕張岳衝上断層,鹿島衝上断層,桂沢衝上断層が南北に延びていることを認定し,衝突帯前縁部の地質構造の大枠を図示した.そしてこれらの断層が千島弧と東北本州弧の衝突およびその後の日高変成帯の上昇に伴って形成されたものであることを明らかにした.なお,夕張岳衝上断層と桂沢衝上断層の間は,塊状泥岩が卓越するため,その地質構造は明らかでなかった.しかし,大型化石および微化石に基づいて同一化石基準面を広域にマッピングすることにより,同地域には北北西-南南東方向の軸をもつ複褶曲群が発達していることが分かった.上記の結果を基に,衝突による地殻の短縮量を見積もった結果,およそ50kmの短縮が起きていることが明らかになった. 2.上記の地域に広域に分布している白亜紀の前弧海盆堆積物(蝦夷層群)の層序と微化石群集を詳細に検討した結果,白亜紀に海洋の中層〜深層が氾世界的に酸素欠乏状態になった海洋無酸素事変の証拠が,3つの層準(前期アプチアン,後期アルビアン,セノマニアン・チューロニアン境界)から検出することができた.従来,海洋無酸素事変の研究はヨーロッパおよび北米東部地域など,大西洋・地中海地域が中心であったが,北西太平洋地域からの発見は初めてである.
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