本研究では、好中球ならびに血管内皮細胞の細胞機能を指標として、妊娠中毒症を随伴した母体血清中に存在する生理活性物質を分子遺伝学的手法を用いて単離・同定し、得られた物質の機能の解析を行うこと、ついで抗体を作製し、免疫学的スクリーニングを用いて臨床応用の可能性について検討することを目的とした。 これまでの研究によって、重症妊娠中毒症を発症した母体の血清中には、1)好中球の活性酸素産生能を増強する生理活性物質が存在すること、2)本物質はヒト不死化絨毛細胞株(TCL-1)ならびにヒト臍帯血管内皮細胞株(HUVEC)のDNA合成能を抑制すること、3)2)の機序の発現にはアポトーシスが関与すること、4)ゲル濾過クロマトグラフィーによる母体血清因子の精製では50kDに抽出される画分において、最大の生理活性が得られること、が分かった。 一方、生後12週齢のWistar系ラットを用いて、一酸化窒素合成酵素阻害剤(L-NAME)の持続皮下投与法を用いて作成した子宮胎盤循環障害の動物モデルの検討では、胎盤形成初期である妊娠8日目からL-MME投与を開始した群では、正常妊娠群と比較して、1)高血圧、腎の糸球体障害・炎症細胞の間質浸潤、および2)子宮内胎仔発育遅延をきたすこと、3)胎盤絨毛細胞の数的減少に加えて、浸潤能の指標となるmatrix metalloproteinase-2の発現増加をきたすこと、が分かった。さらに、妊娠中毒症ラットの母獣から得られた非働化血清は、4)ラット絨毛細胞株(RCHO-1)に対して、細胞障害作用を有し、アポトーシスを惹起すること、が分かった(投稿準備中)。これらの成績はいずれもヒト妊娠中毒症に認められる所見と合致することから、本動物モデルはヒト妊娠中毒症の病態形成過程の解明モデルとなりうることが示唆された、現在、母獣血清中に存在する生理活性物質の同定作業に取り組んでいる。
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