研究概要 |
蝶類・シジミチョウ科の幼虫のアリとの共生関係の起源と発達過程を以下のように系統進化学的に解明した。 1.問題点の解決 (1)共生等の相互関係の把握 全4亜科9族のうち,日本産を中心とした4亜科8族で構成される57属58種のシジミチョウ幼虫に関して,具体的な行動生態データを記録し,各種幼虫のアリとの関係について共存,相利共生,片利共生,寄生の段階分けを行なった。 (2)好蟻性器官の機能と起源の解明 幼虫が持つ代表的な3つの好蟻性器官を,走査電顕での形態学的研究および解剖学的研究により比較検討した。構造の相同性から1つは刺毛起源,2つは気門起源と考えられた。 好蟻性器官とされる伸縮突起からの分泌物の有無を調べた。このうち1亜科の種からはアリの警報フェロモンに類似した揮発性物質,別の1亜科の種からは自然界ではほとんど生成されない機能不明な揮発性物質が検出された。残りの1亜科の種からは何も検出されなかったが,視覚的に外敵の攻撃を錯乱させる防御器官であることが明らかになった。 (3)シジミチョウ科の系統関係の推定 主に雌雄交尾器と幼虫の形態データによる系統解析とmtDNAのND5領域における分子データによる系統解析によって,整合性の高い系統関係を構築し,上位分類群の系統分類体系を確立した。 2.アリとの関係の起源と発達過程の推定 1の(1),(2)で明らかにした総合的な知見から導き出されたアリとの関係を,最節約復元により1の(3)で得られた系統体系を重ね合わせて,アリとの相互関係の進化を考察した。 3.仮説の検証 幼虫の食性からこれまで考えられたアリとの関係の発達における仮説の検証を行ない,次のような仮説が支持された。(1)葉食性からアリ関連物質の原料をより多く含む花蕾食性に転換したグループから好蟻性が出現した,(2)肉食性やアリの吐き戻し食性は,本科の系統枝において,より派生的なグループで独立に数回生じた,(3)アシナガシジミ亜科以外に見られるアリ幼虫捕食などの肉食性は相利共生を持つ祖先群から進化した,(4)アシナガシジミ亜科に見られる肉食性は地衣類食性から転換した。
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