原核生物から哺乳類にいたるまで、ほとんど全ての生物に概日リズムが存在する。概日リズムのペースメーカーとしてペプチドホルモンが関与していると考えられ、本研究では、新規なペプチド性ペースメーカーを明らかにするために次の実験を行った。 1.FMRFアミド様ペプチドの同定と発現解析 作製したイエバエ脳のcDNAライブラリーより、リンの放射性同位体^<32>Pで放射標識した18塩基のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いたスクリーニングを行った。スクリーニングの効率を高めるために、FMRFアミドをコードする2種のオリゴヌクレオチドを用意し、両方のプローブに反応したクローンの配列解析を行った。今回、FMRFアミド様ペプチドの一種であるスルファキニンペプチドの遺伝子の単離に成功した。この遺伝子はFDDYGHMRF(アミノ酸残基数n=9)およびGGEEQFDDYGHMRF(n=14)の2種のペプチドをコードしていた。さらに、これらスルファキニンの遺伝子発現の解析のために、in situハイブリダイゼーションを行った。その結果、概日リズムに関与するPDF発現細胞(時計細胞)近傍にスルファキニン遺伝子が発現することが判明した。現在、スルファキニン発現細胞が時計細胞と一致するかを解析するために、2種のプローブを用いた二重染色を試みている。 一方、昆中脳内に存在すると予想される他のFMRFアミド様ペプチドの遺伝子の単離のために、さらにスクリーニングを継続中である。 2.行動リズムとFMRFアミド様ペプチドの相関の解析 本研究で新規に単離したイエバエのスルファキニンの遺伝子発現およびタンパク質生合成に、概日変動があるかどうかを調べることは非常に興味深い。そこで、この遺伝子の概日変動および発現細胞の変動を調べるために、2時間毎に顕微鏡下でイエバエの脳を解剖した。現在、これらを用いた解析のために実験条件を検討中である。
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