本年度の研究では、超高密度光記録の究極的なアプローチである単一分子レベルでの光記録の実現を目指して、昨年度、合成・開発したフォトクロミズムに伴い、蛍光量子収率を0.73から<0.001の間で可逆的に変化させるフォトクロミック光スイッチ分子を用いて、単一分子フォトクロミズムの観測・制御を行った。 まず単一分子検出に適した光学系の作製を行い、一般的な蛍光色素の単一分子蛍光検出に成功した。単一分子に特徴的な一段階でのデジタル的な光裡色やBlinking現象が確認された。続いて、フォトクロミック(ジアリールエテン)光スイッチ分子を用いて、分子1つ1つの蛍光を分離して検出し、それら1つ1つの分子がON状態(光子情報を蓄えている)であるか、OFF状態であるか(光子情報を蓄えていない)を判定し、読み出すことに成功した。さらに、紫外光照射によりON状態からOFF状態へ、可視光照射によりOFFからON状態へデジタル的に変換させることにも成功した。このONの状態(開環体)とOFFの状態(閉環体)にいる時間はそれぞれ紫外光、可視光強度に依存し反比例の関係を示した。これらの結果から単一分子レベルでフォトクロミズムの観測・制御を行えたものと結論付けた。 また、より良い分子設計指針を得るために、ジアリールエテン分子の電子構造やダイナミクスの基礎研究を行った。有機フォトクロミック分子の反応過程について詳細に調査するために、溶液中のピコ秒時間分解ラマン分光法に加えて、超音速ジェット分光法及び高精度分子軌道計算を行い、ジアリールエテン類の構造変化と光開環-閉環反応ポテンシャルの決定を行った。これらの測定結果からジアリールエテン分子の反応において、プロモーティングまたはアクセプティングモードが存在し、反応の余剰エネルギーが非統計的に分配することが示された。
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