研究課題
集団内外に存在する相互依存関係の性質の違いが人々の集団認知と内集団バイアス行動に如何なる影響を及ぼすかを検討するために、報告者はこれまで最小条件集団状況において依存関係を操作した実験を日本で実施してきた。その結果、最小条件集団状況において、直接交換関係の存在する場合と間接的な交換関係が存在する場合とでは、内集団成員の互酬性に対する期待が異なり、間接的交換関係が存在する場合にのみ、互酬性に基づき内集団を好意的に扱うことが示されてきた。しかしながら、これらの知見に普遍性があるかどうかは日本人被験者のみを用いた実験ではわからない。即ち、依存関係の影響は、他者との関係を重視する日本社会特有の傾向であり、個人主義社会といわれる西洋文化圏では他者との間に存在する依存関係の性質は内集団ひいきやその他の行動には影響しない可能性も残されている。そのため、本年度はオーストラリアのラトローブ大学で同様のパラダイムを用いて内集団成員あるいは外集団成員に対する互酬性の期待に基づいた信頼行動が依存関係の性質によってどのように影響されるかを検討する実験を実施した。その結果、日本人被験者と同様の行動パターンがオーストラリア人被験者でも得られることが示された。即ち、最小条件集団実験状況における内集団バイアスに関して、文化的要因は大きな影響を与えず、集団の中に存在している依存関係の性質の認知が重要であることが示唆された。そこで人々の持つ集団認知と依存関係の認知との間にどのような関係があるのかをより詳しく検討するために、集団の効果を取り除いた上で残存する依存関係の認知が人々の互酬性の期待に与える影響を明らかにする必要があるだろう。従って、平成15年度には日米で先のオーストラリアで実施した実験から集団操作を取り除き、依存関係の性質と関係性知覚が人々の信頼行動に如何なる影響を及ぼすかを検討する予定である。このため、現在アメリカのスタンフォード大学と日本で比較実験を実施するため、プレテストを実施しているところである。
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