2002年春から夏にかけて、北米ロッキー山脈西部の28の河川において野外調査を行い、各調査地において、ザリガニの生息数度ならびに物理化学的要因(水温、底質組成、カルシウム濃度、隠れ家の有無、河川の規模など)を計測した。2001年度の調査結果と併せてデータを解析した結果、115河川中63河川において外来ザリガニが捕獲され、Procambarus clarkii(通称アメリカザリガニ)、Pacifastacus leniusculus(通称ウチダザリガニ)、Orconectes virilis(北方ザリガニ)の三種が確認された。ザリガニの分布に関する予測モデルをステップワイズ重回帰分析を用いて作成したところ、外来ザリガニは、アルカリ性で、水温が高く、隠れ家が豊富にある河川に多く出現し、底質が細かく、流量変動が大きく傾斜角が強い河川に少ない(存在しない)傾向が見られた。さらに、外来ザリガニの分布を制限する環境要因は種ごとで異なった。アメリカザリガニは大型水生植物の存在ならびに河川の規模、ウチダザリガニは底質の粗さならびに岸直下のえぐれの深さ、そして、北方ザリガニは、泥および巨礫の出現頻度がそれぞれ制限要因として重要であることが示唆された。 2002年夏から秋にかけて、北海道大学の実験水路を用いて、成長段階に伴うウチダザリガニの生態学的役割を調査した。実験には小型および大型のウチダザリガニを用い、藻類ならびに水生無脊椎動物群集への影響を調べた。ザリガニは藻類の現存量を著しく減らしたが、藻類の質量(クロロフィル量)には影響を与えなかった。両サイズのザリガニは、トビケラ幼虫(Glossosomatidae)ならびにユスリカ幼虫(Chironominae)の個体数を減少させ、カゲロウ幼虫(Leptophlebiidae)を増加させた。さらに、大型ザリガニの処理区ではGoerodes属トビケラ幼虫が負の影響を受けたが、小型ザリガニの処理区ではこの分類群に影響は見られなかった。ウチダザリガニの生態学的影響は体サイズ依存的ではなく、小型の個体であっても移入先の生態系の構造を大きく変化させうることが示唆された。
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