昨年度までに、リステリア菌感染マウスモデルを用いて、インターフェロンα発現ジャガイモが粘膜アジュバント効果のある飼料として利用可能であることを明らかにし、本研究成果は日本獣医学会より平成14年度獣医学奨励賞を受賞した。 より効果的な粘膜アジュバント及び粘膜ワクチンの関発をするうえで、粘膜面より侵入する病原体の病態発現機構を解明することは重要である。そこで今年度は、代表的な下痢症起因細菌である赤痢菌の宿主細胞への侵入機構について、特に菌の保持する大プラスミド上にコードされるipgB1に着目し以下の成果を得た。 1)ipgB1は赤痢菌III型分泌機構依存的に分泌される。 赤痢菌を始めとするグラム陰性の病原細菌は、III型分泌装置と呼ばれる特殊なニードル状の構造物を介して種々の病原因子(エフェクター)を宿主細胞に注入する。III型分泌機構を誘導するコンゴ赤存在下で赤痢菌を培養するとIpgB1が培養上清中に分泌され、IpgB1がIII型分泌機構により分泌されることを確認した。 2)IpgB1の機能解析 ipgB1遺伝子の非極性欠損赤痢菌を作製し、野生株と比較して培養細胞への侵入効率低下、プラーク形成能の減退を認めた。この表現型は欠損株にipgB1遺伝子を相補してやることにより回復可能であった。また、培養細胞にipgB1遺伝子を導入すると細胞膜のラッフリングが認められることから、赤痢菌はIpgB1を宿主細胞に注入することにより、アクチン細胞骨格の再構成を誘導し上皮細胞への侵入、隣接細胞への拡散を行っており、赤痢菌感染初期病態において決定的な役割を果たしている可能性が示唆された。現在は、宿主細胞内におけるIpgB1の標的分子を酵母two-hybrid法、プルダウン法により探索し、またラッフル膜誘導機序を、Racl、Cdc42等の低分子量G蛋白質動態に着目し分子レベルで解析している。
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