本研究では、ポテンシャル面を解析関数にフィッティングする事無しに、各時間で全エネルギーおよび全原子核上のエネルギー勾配を計算しながら、反応軌跡を時間発展する方法(ダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法)の開発および、それを生体内分子の反応系へ応用することを目的とし、以下の研究を遂行した。 ○S_N2反応ダイナミックスの実時間追尾 生体内において、アドレナリン合成や有毒物質に対する生物の応答で非常に重要となるS_N2反応の反応素過程を調べるため、OH^-+CH_3Cl→CH_3OH+Cl^-の反応ダイナミックスをダイレクト・アブイニシオ・ダイナミックス法により理論的に研究した。反応後、生成物CH_3OHのC-H伸縮モードは時間差を持って励起されることを明らかにした。 ○水和された生体内ペプチド鎖への光照射効果 モデルペプチド分子(trans-formanilide ; FA)-水クラスターのイオン化過程のダイナミックスを理論的に研究した。中性コンプレックスFA(H_2O)には3つの異性体が、カチオンコンプレックスFA+(H_2O)には5つの異性体があることを明らかにした。また、中性コンプレックスの構造が、イオン化後の反応チャンネルに大きく影響を与えることを理論的に予測した。 ○ドーパミン分子配位水との相互作用の解明 ab-intio MD、電子状態理論計算により、ドーパミン分子への配位水の効果について研究し、水中でのドーパミン分子の構造を予測した。
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