研究概要 |
本研究では,複雑な結晶構造や組成を持つ鉱物結晶の分子シミュレーションと,それを可能とする組成・物理条件に対し幅広い信頼性を有す原子間相互作用モデルの非経験的構築及びその手法確立が目的である.また,電子状態から鉱物の熱力学特性・多形間の安定関係の予測を試みる. 前年度,第一原理電子状態理論からの原子間相互作用モデル化の手法開発を行ったので,年度はこれらを地球惑星物質に応用した.地殻浅部における物質流動に関し重要と考えられる鉱物-水複合系の力学特性を調べるため,鉱物表面における水分子の挙動について数万原子規模の分子シミュレーションを初めて可能とした.表面と水分子の間の原子(分子)間相互作用は実験情報から決定することができないので,前年度開発した手法によりはじめて信頼性の高い計算が可能となった.ブルーサイト,ギブサイト,タルク表面での挙動を比較した結果,表面原子種に水の拡散係数などの動的性質が大きく依存することを見出した. また密度汎関数理論,格子動力学法と準調和近似を組み合わせ,熱振動の量子性を考慮して有限温度における結晶の熱力学特性の非経験的計算手法の開発・応用を行った.電子状態理論によるエネルギー計算では,従来"温度"は考慮されていなかったが,この手法により有限温度での固体の自由エネルギーの算出が可能となった.この手法を用いて,金のPVT状態方程式を非経験的に予測し,近年地球惑星内部科学において大問題となっている高温高圧実験における圧力計の不確定性に対し,理論的検証を行いきわめて重要な知見を得た.また旧来より数多くの研究がなされている二酸化珪素の高温高圧相平衡の非経験的予測をはじめて行った.地球下部マントル中部と下部における2種のポスト・スティショバイト転移を予測し,地震学的に観測されている局所地震波不連続面との関連性を議論した.
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