研究概要 |
本研究の目的は,使用温度においてフェライト系耐熱鋼(550℃以下)とNi基超合金(800℃以上)の間にあるオーステナイト系耐熱鋼を,従来の炭化物ではなく金属間化合物を利用して強化するための相変態と組織制御に関する基礎的な知見を得ることである.本年度は,そのモデルケースであるNi-V2元系および第3元素を添加した合金を用い,立方晶のNi-γ(fcc)母相中に微細整合に生成した正方晶のNi_3V-γ"(D0_<22>)化合物相の形態の熱的安定性を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて詳細に調べ,以下の3点を明らかにした. 1.γ→γ"変態により形成されるMulti-variant組織の時効に伴う崩壊機構 γ→γ"変態により形成されるMulti-variant組織は,{102)_<γ">と{100)_<γ">の2つの整合界面からなる四角柱状のmajor variantと,それらの間の2種類のchamelを埋める2つのminor variantからなる.このchannelにはγ→γ"変態に起因するひずみ場が存在する.高温で時効すると,このひずみ場に起因する空孔の移動が生じるため,variantが選択成長し,variantの数は3から2に減少する.また,variant領域の粗大化に伴いvariant界面にmisfit転位が導入され,界面の整合性は失われる. 2.Ni-γ相の導入によるMulti-variant組織の非整合化の抑制 余剰のNiを添加しminor variantの一部をNi-γ相で置換した合金を高温で時効すると,major variantの形態は四角柱状から粗大な板状に変化する.しかし,界面の整合性は長時間時効後も維持される.これは,γ/γ"2相間の格子ミスフィットが最小となるように晶癖面が回転することに起因する. 3.Ni-γ/Ni_3V-γ"2相整合組織の形態に及ぼす第3元素添加の効果 第3元素の添加により,γ"相の形態及びγ/γ"相間の晶癖面は変化する.TEMマイクロビーム法により両相の格子定数を直接測定し,両相間の格子ミスフィットをγ"相のa軸とc軸を区別して求めた(δ_a,δ_c).その結果,δ_aは負,δ_cは正の値を持つため2相間には不変線が存在し,それを含む面が晶癖面になること,また,この晶癖面は格子ミスフィットの比δ_c/δ_aに強く依存し,その値が-1に近づくと{110}_γ//{102_<γ">に近づくことを見出した.一方,γ"相の形態はδ_aの値によって決まり,δ_a<-0.2%の場合には不変線とa軸の2方向に成長した板状になるが,δ_aの値が0に近づくと,a軸方向にのみより成長した角柱状になることを明らかにした.
|