様々な分子超伝導性発現の可能性について探ることは大変興味深く、学術上、意義があるものと考えられる。そこで、これらの超伝導性は分子内振動とLUMOとの間の振電相互作用によって引き起こされるという仮説に基づき、電子・フォノン結合定数を計算した。 まずコロネン(C_<24>H_<12>)、コラニュレン(C_<20>H_<10>)について考察を行った。その結果、コロネンでは0.05-8.86K程度で、コラニュレンでは29.17-65.56Kで超伝導性を示し得ることを提案した。これらの分子の分子構造の相違が、超伝導臨界温度に影響していると提案した。 さらに分子性結晶が大きな超伝導臨界温度をもつための基礎的条件を考察するため、分子サイズが小さくて対称性が高い、立方体型クラスター、キュバン(C_8H_8)について考察した。その結果、キュバンでは非常に大きな電子・フォノン結合定数の値0.495eVが得られ、200K以上で超伝導性を示し得ることを提案した。 また、電気陰性度摂動効果の影響を調べるため、アセン系分子における炭素を、ホウ素、窒素で置換したB_3N_3H_6(ボラジン)、B_5N_5H_8、B_7N_7H_<10>などの分子についても同様に考察を行った。その結果、B_5N_5H_8、B_7N_7H_<10>では、ナフタレン、アントラセンの場合に比べ、より低振動数の振動モードが電子・フォノン相互作用に重要な働きをするため、超伝導臨界温度と、常温における電気伝導度が低く見積もられるという結果が得られた。 これらの一連の研究から、分子性化合物が高温超伝導性を示す条件として「(1)分子サイズが小さい(2)分子が高い対称性をもつ(3)高振動数振動モードが超伝導性発現に重要な働きをする(4)HOMO-LUMOギャップが大きい」ということを提案している。
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