最近のマイクロアレイを用いた遺伝子発現の大規模解析により、細胞性粘菌の発生過程において細胞が集合する時期を境に、発現される遺伝子が大きく変わることが示された。これは、単細胞から多細胞へ移行する時期に遺伝子発現を制御する因子が大きく変化すること、似たような発現パターンを示す遺伝子グループは共通の転写制御因子に支配されていることを示唆する。私は、発生過程における遺伝子発現に、どのような転写制御因子が『いつ・どこで』遺伝子発現に関与しているのかを明らかにし、最終的に細胞性粘菌における多細胞体形成における遺伝子発現のネットワークを明らかにすることを目標として解析を行っている。 昨年度までに、日本cDNAプロジェクトおよびゲノムプロジェクトの塩基配列データより、他生物の転写制御遺伝子に相同性な遺伝子を55個抽出し、(1)遺伝子破壊株の作製 (2)転写制御因子遺伝子の時間的発現プロファイル解析 (3)転写制御因子遺伝子の空間的発現プロファイル解析 を網羅的に行っている。 (1)については昨年・今年とPCR法による効率的破壊株作製法の開発と破壊株作製を行った。作製方法については1本のチューブ内で極めて効率的に遺伝子破壊用DNAを作製する方法を開発し発表した(BIOTECHNOLOGY LETTERS 24(16):1307-1312 2002)。これらの方法を用い現在までに16遺伝子の破壊株を得ている。(2)については転写制御遺伝子の発生過程における時間的発現プロファイル解析をリアルタイム定量PCR法を用いて行い、現在までには55遺伝子中38遺伝子の解析を終了している。(3)についてはin situハイブリダイゼーションによる空間的発現プロファイル解析を行い55遺伝子中26遺伝子の解析を終了している。今後(1)(2)(3)について55遺伝子全てでの解析を終了し、また遺伝子破壊株を用いたマイクロアレイ解析を行う予定である。
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