研究概要 |
高血圧性心肥大とそれに引き続き起こる心不全は,高血圧における重要な合併症であり,高血圧性心筋症とよばれ二次的に心筋の収縮不全をきたす。我々は昨年度までに,心筋に強く発現する分泌型サイトカイン様遺伝子(仮称:DSS-10)のアミノ酸置換を伴う変異(Thr326Ile)が,高血圧性心筋症患者に有意に高い頻度(22.2% vs 0.2%,p=0.0003)で見出され,酵母2ハイブリッド法による検討でT-cap蛋白への結合親和性が野生型に比して変異型で約45%低下することを見出した。本年は,変異DSS-10の機能変化を明確にすることを目的として以下の検討を行った。食塩感受性ダール高血圧ラットを用いて,早期の心肥大あるいは心不全期の左心室心筋よりtotal RNAを抽出し,real timePCRでDSS-10遺伝子の発現を定量した結果,心肥大/心不全早期に各々約1.6倍/1.3倍に増加していた。一方,COS培養細胞にFlag tag-T-capとGFP tag DSS-10を共発現させ,抗Flag抗体で免疫沈降し,抗GFP抗体で発色させるWestern Blotを行った。野生型DSS-10蛋白は特異的にT-capと結合し,変異型DSS-10は野生型に比して結合親和性が約40%低下しており,酵母2ハイブリッド実験系と同様の結果が得られた。また,T-capと共発現させた際の細胞内に存在する変異型DSS-10蛋白発現量は野生型に比して低かった。これらのことから,変異型DSS-10遺伝子産物はT-capへの結合が低下し,心筋内への貯留が起きず,より細胞外に分泌されやすいことが示唆された。
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