研究概要 |
蛋白質の部分構造であるモジュールが,蛋白質全体の構造安定性にどのように寄与しているかを調べるため,切離したモジュールの水溶液中での安定性を,分子動力学法を用いて調べる事,またそれに必要な計算手法を開発する事が本研究の目的である。プログラム開発,及び計算は主に研究室の既存の計算機を用いた。また得られた大量の座標データはDATとDLTに保存した。 分子動力学シミュレーションプログラムとして,解析的連続溶媒モデルとレプリカ交換法を組み合わせた新たなプログラムを開発した。解析的連続溶媒モデルを採用する事により,水分子を露に取り扱う場合に比べ大幅に計算コストを減らす事が可能となった。またレプリカ交換法により,10〜100ナノ秒程度の短いシミュレーション時間で,局所安定構造にとらわれることなく,広い構造空間を探索する事が可能となった。このプログラムの完成によって,モジュールの大多数を占める10〜30アミノ酸残基のペプチドに対して,現実的な時間で解析に十分な精度の座標データを得ることが可能となった。 バルナーゼのモジュール5(M5)である,11残基のペプチドの分子動力学シミュレーションを行なった。その結果,サンプルした構造の7割以上は天然構造と同じ部位が折れ曲り構造をしている事がわかった。またその中の一部の構造は,天然構造に非常に近いβヘアピン構造(α炭素のRMSDで約2Å)をとっている事が分かった。この結果は,バルナーゼのM5が単独でも天然構造に近い構造を頻繁にとることを示しており,モジュールが蛋白質全体の折れ畳み過程においての基本単位である可能性を強く示唆している。
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