「接触阻止」は、細胞が互いの存在を認識し、それまで個々ばらばらに振る舞っていた状態から、統制のとれた細胞社会として振る舞う為に必須な機序である。接触阻止の分子機序を解析するためには、まず接触阻止を引き起こす前過程である細胞運動の分子機序を解析することが重要である。そこで、本年度は下記の点について解析を行った。 1パキシリン下流分子の作用機序の解析及び遺伝子破壊によるin vivoでの機能解析 細胞運動が活発になると、インテグリンの裏打ち蛋白質であるパキシリンとp130Casのチロシンリン酸化の亢進が最も顕著な変化として観察され、これらの分子はチロシンリン酸化を介して、細胞の運動性と増殖の接触阻止に対して互いに逆の作用及ぼすことが明らかにされている。これまでに、パキシリン結合蛋白として見い出したPAG3(paxillin-associated ARFGAPs)はamphiphysin IIやintersectin等のendocytosisに必須な蛋白質と直接相互作用することを明らかにしてきた。また、PAG3はリサイクリングに関与しているArf6のactive formに結合出来ること、amphiphysin IIと三者complexを作ること、これらは膜で共局在すること、PAG3がPyk2によってリン酸化されるとamphiphysin IIは複合体から離れること等を見い出してきた。本年度は、細胞運動に重要であると考えられるPAG3を中心に解析を行った。その結果、RNAi法によりPAG3をノックダウンすると細胞運動性に障害が見られること、細胞運動が活発に起こっている脳における発現及び局在を調べることにより、そのような領域でも重要な役割を担っていることを見い出した。現在、in vivoでの機能解析を行うべくノックアウトマウスの作製を行っている。今後は、細胞運動におけるPAG3のリン酸化の意義、in vivoにおけるPAG3を含めたArfGAP蛋白質の機能を解析していくことにより、細胞運動制御の基本的機序を解きほぐしていく予定である。
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