前年に引き続き出土文字資料の集成を行った。その主たる収集先は平泉であったが、資料収集の過程では他地域の出土文字資料に触れることも多く、釈文の作成や分析などにも協力することとなった。こうした作業の過程では、ある地域の歴史を構築する際に出土文字資料をどのように使用し、その成果を地元にいかに還元するかという、いわば方法論の構築と研究成果の有効活用も併せて検討することになった。 その一環として、同時代史料に乏しい遊佐荘の中世景観の復元に際し、出土文字資料を含めた考古学や歴史地理、あるいは現地踏査の成果なども含めての復元を試みた。ここでは当地が出羽国の政治と経済と宗教の拠点であったことを明らかにし、その上で荘内に位置しながら鎌倉と同傾向の出土遺物を有する特異な遺跡たる大楯遺跡に注目、水陸交通の便に恵まれたこの周辺こそが先にあげた拠点のあった場所で、幕府(北条氏)の地域支配を担っていたことを明らかにした。なお、この研究に当っては大楯遺跡出土の荷札を活用し、当地が他地域への搬出物資の集積所であったことと、双方向的な地域交流のあり方を示す具体的証拠としている。また、出土文字資料から平泉における中世人の生活と心性に関する研究も行い、併せて当たり前のことが書かれ、かつ廃棄が前提であった出土文字資料はその性格上、文献史料には残りにくい事象の復元に際し極めて有効であることを確認し、平泉研究における当該資料の有効活用を主張した。なお、この研究については地域住民を対象にした講演も行い、成果を地元に還元している。 また、去年に引き続いて学際協力的な立場からの研究も実施した。その成果としては史料に登場しにくい「におい」に注目し、欧州における社会史の研究成果を参考にして、考古学で明らかにされつつある都市の墓場の実体を元に、悪臭に対する中世人の心性を探った。なお、中世武士に関する研究も行っている。
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