研究分担者 |
TAN Man Wah マレイシア森林研究所, 研究員
CHEY Vun Khe サバ森林研究センター, 研究室長
KHOO Soo Ghe マラヤ大学, 動物学部, 教授
THO Yow Pong マレイシア森林研究所, 環境科学部, 部長
上遠野 富士夫 千葉県立農業試験場, 研究員
斎藤 裕 北海道大学, 農学部, 助教授 (20142698)
久万田 敏夫 北海道大学, 農学部, 助教授 (50001425)
森 樊須 北海道大学, 名誉教授 (10001398)
笹川 満廣 京都府立大学, 名誉教授 (20046410)
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研究概要 |
1。現地調査を,限られた時間の中で効率的におこなうため,交通・宿泊の便が良く,またできるだけ多様な植生が調査できるような場所を選んで,実施した。昭和61(1986)年度のマライ半島中央高地,昭和63(1988)年度のサバー州に次いで,平成2(1990)年度はマライ半島東海岸沿いで,平成3(1991)年度はサラワク州とマライ半島北西部で,それぞれ数カ所を調査地に選定した。マレイシアでは他に調査すべき場所は到達等が必ずしも容易でないため,マレイシアでの調査は平成3年度をもって完了したものとし,平成4(1992)年度にはフィリピンのルソン島の数カ所で調査を実施した。 2。得られた材料は次のとおりである。平成2年度:カイガラムシ605乾燥(一部液浸)サンプル,約400種;潜葉性小蛾類486潜葉サンプル,約80種;アザミウマ約100チューブ,約60種;双翅目的120乾燥標本,約30種。平成3年度;カイガラムシ498乾燥(一部液浸)サンプル,約200種;潜葉性小蛾類550潜葉サンプル,約80種;アザミウマ265チューブ,約100種;フシダニ約300液浸標本,約30種。平成4年度:カイガラムシ123乾燥(一部液浸)サンプル,約80種;潜葉性小蛾類117潜葉サンプル,約60種。寄主植物はマレイシアにおいては森林研究所のコチュンメン氏によりその大部分が種または属まで同定された。フィリピンでは現在フィリピン大学において同定作業が進められており,一部については同定結果の通知を受けとっている。この調査で得られたコレクションは,多様な植生で調査がおこなわれたことと,寄主植物の大部分について信頼できる同定を得たことで,極めて価値が高い。とくに,カイガラムシと潜葉性小蛾類については研究担当者が全調査年度を通じて参加し,昭和61・63年度の調査と合わせて,東南アジアでは空前のコレクションとなった。 3。コレクションの研究は進行中であり,今後長年にわたっておこなわれるが,現在まで6編の論文が印刷発表されている。これらの論文は昭和61・63年度の調査に基づく論文とともに,論文集第一巻としてまとめられ,近く国内外の主要研究機関に配布される。 4。従って.最終的な研究結果について報告することはできないが,この研究は主として次のような実績をあげつつある。(1)東南アジアでは現在まで調査・研究がほとんどおこなわれていないか,または甚だ不十分な植物寄生性微小節足動物の数群について,おびただしい新種が発見され,カイガラムシについては多数の新属の設定が必要となった。(2)これに基づいて,この地域のファウナの特徴が明かにされつつあり,当初予期されたような東アジア温帯との関連が具体的に解明されつつある。(3)寄生植物の同定が確実に行われ,応用上有益な基礎資料が提供されつつある。(4)多くの新形態を研究することにより,当該群の分類学に新しい局面がもたらされ,分類体系の改善が進められつつある。 5。とくにカイガラムシと潜葉性小蛾類については,後胚子発生における形態パターンの研究に基づいて,生物進化の様式にも研究が及んでいる。カイガラムシの第二齢幼虫の多型現象の研究から次のような仮説がたてられた。(1)二齢幼虫の多型は進化の途上で構成されたことのあるいくつもの形態パターンに対応する。(2)これらの型は,雌成虫の進化によって生じた遺伝的構成の変化に伴って,その効果として切り替わりながら発現する。(3)型から型への切り替わりは突発的に起こる。(4)以上のことから,二齢幼虫の多型そのものには適応的意味はない。現在,調査によって得られた豊富な材料を駆使してこの仮説の分類学的テストが進められている。
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