研究課題/領域番号 |
02041021
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大貫 良夫 東京大学, 教養学部, 教授 (00126012)
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研究分担者 |
LUCENIDA Car ペルー文化庁, 文化財保護局, 調査員
松村 博文 札幌医科大学, 助手 (70209617)
加藤 泰建 埼玉大学, 教養学部, 教授 (00012518)
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研究期間 (年度) |
1990
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キーワード | アンデス先史学 / 形成期 / カハマルカ / ペル- / クントゥル・ワシ |
研究概要 |
ペル-国北部山地カハマルカ県のクントゥル・ワシ遺跡で、墳墓群の緊急発掘を主たる目的として発掘調査を行った。 クントゥル・ワシ遺跡は中央アンデス形成期の重要な祭祀建築遺跡のひとつであり、昭和63年度に調査を開始した。(昭和63年度〜平成元年度:古代アンデス文明の生成過程の研究/課題番号63041039/研究代表者:大貫良夫)。平成元年度の調査において、遺跡中央部の墓壇構造の床下に掘りこまれた三墓の墓が確認され、7点の黄金製品を含む数多くの副葬品が発見された。中央アンデス形成期文化の黄金製品が考古学的調査によって発見されたのは前例のないことであり、その学術上の意義は多大であった。未発掘部分の墓壇床下にはさらに別の墓が並んでいる可能性があったため、これらの緊急調査とこれに関連する建築及び土器資料の分析が急務であった。 本年度の調査によって新たに三基の墓が発見された。第4号墓は、前年度の調査で既に発見されていた三基の墓(第1号室〜第3号墓)の西側に位置する。他の墳墓同様、クントゥル・ワシにおける第二時期目に、新しい墓壇を建設する過程で、最初の時期の基壇構造の床を掘りこみ埋葬した墓であることが確認された。人骨と共に埋められた副葬品は玉が20種類(緑色の管玉・丸玉、ラピスラズリの管玉・丸玉、白・赤色の貝、トルコ石など)計約6900点、人面の彫刻が施された石の小型鉢が一点、金製の円錐形垂飾りが一点、金製あるいは銀製の小さな鳥形下げ飾りが3点、同破片が約100点、土器は3個体であった。同じ並びの他の三基の墓との顕著な違いは副葬品における玉の多さにあり、埋葬された人物に対する位置付けを考察するうえで興味深い資料となった。 第5号墓は第4号墓の西側約7mの地点、クントゥル・ワシにおける第1時期目の中央基壇複合西の小部屋状構造の床面に掘りこまれていた。人骨のほか、副葬品として骨角製の首飾り1点(管玉数7点)、貝製の首飾り(管玉数20点)、貝あるいは石製の玉5点、骨製の小型スプ-ン1点、骨角製円盤1点、銅製円盤2点、他に土器破片及び獣骨、貝が出土した。 第7号墓(注:第6号墓は前年度発掘分の墳墓)は、第1時期目の中央基壇構造の北側で発見されたが、既に攪乱された痕跡があった。おそらく副葬品の一部と思われる出土品は、金製品の破片が3点、貝製・石製の管玉・丸玉が15点、骨製笛が1点であった。 墳墓群の発掘と付随して行われた遺跡中央部分の発掘においては、前年度までにはごく断片的にしか明らかになっていなかったクントゥル・ワシ遺跡の最初の時期の建築として、部分的ではあるが基壇及び半地下式の方形構造のプランが確認された。さらに、これらの建築との明確な層位的対応のもとに、同時期の土器資料が得られたことも今年度の収穫のひとつであったと言える。これらの土器資料に関しては、先述の墳墓副葬品とともに現地で可能な限り実測や写真撮影を行い、そのデ-タを持ち帰った。今後これらを利用して、国内でさらに分析作業と比較研究を行なうことが可能な状態にある。また、このクントゥル・ワシ最古の時期に壁面の一部を飾っていたと思われる赤・緑・黄色で彩色された土製の神像(長さ71cm・幅21cm)が出土した。 遺跡南部の部分的な発掘においては、クントゥル・ワシでの神殿建築活動が活発化した第2時期目に機能していた円形半地下式広場の一部を確認することができた。中央アンデス形成期においてこの建築様式が発掘されている遺跡はごく限られており、クントゥル・ワシ遺跡の位置付けを考察するうえで有力な資料となろう。 今回の発掘調査で得られた資料は、昭和63年から蓄積されている調査資料とあわせて今後さらに分析を行う。クントゥル・ワシ遺跡は中央アンデス形成期文化の全体的解明において重要な鍵を握る神殿遺跡であり、その発掘資料と今後の分析結果は古代アンデス文明生成過程の実証的研究に新たな知見を加えることになろう。
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