研究概要 |
20年前から企画し,1988年の共同研究者との最終合意により計画が具体化した本研究は昨年度のイタリア南部とギリシャおよび本年度のユ-ゴスラビアでの現地実地調査と採集された膨大な資料の増殖・分析調査からなる。すなわち本年度はユ-ゴスラビア西部と南部のコムギとオオムギならびにそれらの近縁な植物の生態学的ならびに栽培方式や利用形態などの農学的調査とそれらの種子を採集し,さく葉標本の作製を中心に実施した。ユ-ゴスラビアでは10科637サンプルにおよぶ植物が採集できた。主要対象としたイネ科とくにムギ類については一粒系栽培型14,野生型2,二粒系皮性栽培型12,二粒系栽培型27,および普通系パンコムギ62系統を採集できた。特に野生一粒系コムギの新たな分布と皮性栽培二粒系の存在は意義深いものとなった。しかし,皮性栽培二粒系や在来品種だけを栽培している畑はみられず近代品種との混植で主としてオオムギとともに飼料として用いていた。また,しばしば混成栽培集団でパンコムギとマカロニコムギの在来品種を採集できた。 コムギの近縁植物としては二倍体のAegilos comosa(2系統),Ae.uniaristata(5),四倍体のAe.cylindrica(4),Ae.triuncialis(32),Ae.ovata(33),Ae.triaristata(38)およびAe.biuncialis(35)がみつかった。さらに,ライムギは49,オオムギは28,野生のオオムギ20系統を採集した。野生植物の分布は固有の生態環境との関係が示唆される。この点は昨年調査したエ-ゲ海の小島やシシリ-島あるいはその他の地域からの保存系統との比較研究の恰好の材料となろう。現在これらの収集品を栽培し,その遺伝子的特性を詳細に分析しつつある。近い将来英文報告書にまとめ,採集系統の子孫種子を有用遺伝資源として適切に保存し,世界の研究が活用できるようにし,将来,西部地中海沿岸地域の同様な研究を実施したい。
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