研究課題
国際学術研究
本研究は、昭和57・59・61・63・平成2年度におもにコロンビア国とブラジル国でおこなった。広鼻猿類の種分化に関する現地調査の総括に相当する。コロンビア国のラベンダ地域において、新生代中新世の中期(約1400万年前)にあたる地層から、広鼻猿類を中心とした哺乳類の化石の発見につとめ、地質図の作成や絶対年代の決定をこころみ、多大な成果をあげることができた。ブラジル国において、またコロンビア国においても、自然史系の博物館に収蔵されている広鼻猿類の骨格標本を計測・観察して、膨大な資料を収集してきた。1.発見した化石標本の解析と記載ほぼ完全に歯列をそなえた下顎骨をはじめとして、約10個体ぶんに相当する200点をこえる遊離歯が採集された。そのなかには、これまで未発見の上顎歯と乳歯がふくまれていた。化石標本は、かなり著しい形態変異を示すが、現生リスザルSaimiriに類似するように思われた。研究分担者・瀬戸口烈司、前分担者・茂原信生、分担者・高井正成は、アメリカ合衆国の共同研究者とともに、リスザルの歯列にみられる形態変異を詳細に検討し、化石Neosaimiriとの系統関係を推定する論文を国際雑誌に公表した(論文2を参照)。上記3氏はさらに、現地参加の研究者と共同で、中新世の翼手類化石を新属新種Kiotomops lopegiとして報告した(論文3を参照)。高井正成は、既報の広鼻猿類の化石NeosaimiriとLaventianaを同類として一括し、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡をもちいて観察をおこない、みごとな立体写真をそえた記載を完了した。Neosaimiriの大臼歯はリスザルより大型であるが、切歯は小型であり、両者の間に明確な属レベルの差異が存在すること、前者が後者の祖先集団であることながが認定された。高井は、以上の成果をまとめ、学位請求論文として京都大学理学研究科へ提出した(論文6を参照)。論文は審査を合格し、公表のため整理されている。2.地質図の作成と絶対年代の決定コロンビア国立地質鉱山研究所および国立コロンビア大学地質学教室の協力をえて、ラベンタ地域の踏査を徹底的におこない、詳細な地質図と柱状図を作成し、広鼻猿類の化石を産出する数地点の層準を明確にした。以上の成果は、多色版の地質図と説明書として報告される予定である(論文4を参照)。調査地域に分布する含火山灰層からジルコンの抽出につとめ、フイッション・トラック法による絶対年代の測定をこころみた。12層準から採集した資料のうち、資料002は13.6±0.7Ma、資料003は13.6±0.7Ma、資料004は12.6±0.5Maを示した(Maは100万年前)。以上の絶対年代は、上記研究所・ヌニェス研究員を招へいし、京都大学霊長類研究所でおこなわれた南アメリカ関係者の討議に提供され、化石動物相による相対年代とよく調和するとして評価された(論文5を参照)。3.広鼻猿の形態解析ブラジル、ペル-、コロンビア国などの自然史博物館に収蔵されている広鼻猿類の骨格標本を観察・計測し、化石との比較のための基礎資料とした。とくに、研究分担者・小林秀司は、ティティ属の種間および種内の形態変異を検討し、統計的な手法をもちいて系統関係を追究した。小林は、ティティ属を5系統群に大別し、それぞれの系統群を形態群に細分する、新しい系統分類を提案している。さらに核型の多様性、毛皮の色彩変異、生態的な知見などもくわえ、ティティ属の起源、分化、分散などに関する新仮説を提示し、学位申請論文としてまとめている。また、Neosaimiriの歯列全体の形質を現生リスザル以外の広鼻猿類と比較することによって、系統関係を明確にする吟味がなされている。走査型電子顕微鏡による観察と、レ-ザ-式3次元計測器による測定とを組合せた検討がすすめられている。
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