研究分担者 |
KETUDAT P. スリスカリンウイロート大学, 理学部, 助教授
THAITHONG S. チュラロンコン大学, 理学部, 教授
SINGH M.S. ノースイースタン医科大学, 教授
SINGH T.S. ノースイースタン医科大学, 助教授
姜 華 北京医科大学, 人民医院, 助手
賀 聨印 北京医科大学, 人民医院, 教授
杉山 広 国立予防衛生研究所, 主任研究官 (00145822)
柴原 寿行 鳥取大学, 医学部, 助教授 (70116937)
吾妻 健 高知医科大学, 医学部, 助手 (40117031)
波部 重久 福岡大学, 医学部, 助手 (70037430)
寺崎 邦生 聖マリア学院短期大学, 教授 (80078675)
SINGH M. Samarendra Professor, North Eastern Regional Medical College, Imphal
SINGH T. Shantikumar Associate Professor, North Eastern Regional Medical College, Imphal
JIANG Hua Research Associate, People's Hospital, Beijing Medical University, Beijing
HO Lian-Yin Professor, People's Hospital, Beijing Medical University, Beijing
KETUDAT Punsin Associate Professor, Faculty of Science, Srinakharinwirot University, Bangkok
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研究概要 |
本研究の二つの大きな目的は、(1)日本産ウエステルマン肺吸虫(以下ウ肺吸虫と略)3倍体の起源を明らかにすること(2)ウ肺吸虫の原記載に一致する集団を特定することである。そのため、平成2年度から3年度にわたり以下の研究を行った。 (1)に関連しては、1990年7月27日から8月27日の間、中国東北部(黒滝江省、吉林省および遼寧省)の18地区で調査研究を行った。採集したザリガニCambaroides dauricus,C.shrenkii 1,873個体から、約5,000個の肺吸虫幼虫(以下Mcと略)を得た。これらをイヌ、ネコおよびラットに感染させ成虫を回収した。これらは総てウ肺吸虫と同定された。特に遼寧省産の虫では、染色体の観察から2倍体、3倍体のほか、少数ではあるが4倍体の虫も見い出された。同地方産の3倍体は動物に対する感染性の点からも、またアイソザイムパタ-ンからも、日本産の3倍体に酷似していた。しかし、同地方産の2倍体では、アイソザイムパタ-ンにおいて日本産の2倍体が単一なのに対して、極めて多様性を示すばかりでなく、日本産の3倍体にみられる特有遺伝子が高率に見い出された。この事実は、中国東北部産のウ肺吸虫のある集団が日本産の同肺吸虫の3倍体の祖先形成に深く関係しているのではないかということを示唆した。すなわち、日本産ウ肺吸虫3倍体は中国東北部のある地域(特に遼寧省が推定される)で近縁集団との交配により成立し、比較的近年、朝鮮半島を経由してヒトか動物と共に、わが国に入り急速に分布を広げたものと推定される。 (2)に関しては、ウ肺吸虫の模式産地インド・ベンガル地方近辺で調査研究を行った。1990年11月インド・マニプ-ル州で得た36個体の肺吸虫幼虫Mcのうち、その形態からウ肺吸虫に類似の2個体のネコへの感染実験では、135日後にネコを剖検し、2個体の成虫を得た。成虫の形態はKerbert(1878)の原記載に類似するが細部において異なり、別種である可能性が大きいと推定した。1991年9月23日から10月16日の間、インド・前記の州における研究で、カニPotamiscus manipurensis570個体から843個の肺吸虫Mcを得、イヌ、ネコをはじめ各種実験動物に感染させ経過観察中である。Mcは、その形態から、westermani型、heterotremus型、bangkokensis型および従来記載のない型などに類別出来た。成虫が得られた段階で、詳細な形態学的、遺伝学的研究や宿主特異性などの研究を行うが、この地域で流行する肺吸虫症の病原虫としては複数種が複雑に関与していることが推察された。また、同年10月16日から10月29日の間、タイ南部でも調査研究を行った。35個体のカニすanguna smalleyから肺吸虫Mc大型17、小型1を、さらにカニPhricotelphusa spp.の170個体から肺吸虫Mc大型8、小型747を得た。これらは、実験動物に感染させ経過観察中である。大型のものはウ肺吸虫に類似しているが、小型のものは、これまで類似のものは見い出されていない。以上のようにインドおよびタイにおいて膨大な数の肺吸虫Mcを得、現在、動物実験により経過を観察中である。成虫が回収されれた段階で、当初からの予定の研究を遂行する。しかし、多種・多形の肺吸虫Mcの発見から、ウ肺吸虫の原記載集団を特定するという本来の研究の遂行と同時に、これらの地域における肺吸虫と肺吸虫症について病原虫の種類や感染経路を含めた疫学調査など、医学上の重要課題の解明が急がれることになった。
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