研究課題
国際学術研究
本研究は昭和59年度・60年度に実施された「熱帯の劣悪土壌地域の植生管理とその農林業的利用に関する生態学的研究」(No.59041056)及び昭和62年度から平成元年度に実施された「熱帯の劣悪土壌地域の生物生産力の回復」(No.62041088)の成果の取りまとめのために実施された。この研究は、タイ国内に広がりつつある、採鉱や粗放な焼き畑によって生じた劣悪土壌地域での、早成樹種造林と農業的利用の可能性を探り、さらにそれがもたらす問題点を明らかにすることを目的としている。タイでは1970年代からユ-カリ樹種、特にリバ-レッドガム(Eucalyptus camaldulensis)による造林が盛んに行われているため、本研究でも3カ所の異なる由来を持つ試験造林地でこの種を用いて研究を行ってきた。今年度はタイ側の研究者を招聘し、デ-タ解析結果を日本側研究者と共同で検討した結果、以下のような成果が得られた。1.早成樹種造林と農業的利用の可能性リバ-レッドガムを実験材料として、有機肥料、化学肥料、マルチング、客土など、土壌に対する処理を単独あるいは複数組み合わせることにより、稚樹の定着率・成長速度がどう変化するのか、植栽後5年間追跡調査を行った。この結果、タイ南部のスズ採鉱跡地の粗砂の堆積地では植栽5年後の植物体現存量(地下部を含む)は、無処理の場合1.53t/haにすぎないが、イネ科雑草の植物体によるマルチングにより11.18t/haに、化学肥料・有機物肥料の投与と稚樹を植栽する穴に小量の粘土質土壌を客土することにより44.54t/haに上昇し、これらの処理が成長率を著しく改善することが明かとなった。しかし、植栽した樹木の生存率ははマルチング処理の場合が最も高く、土壌環境の改良の効果と考え合わせてもマルチングが最も望ましい処理と考えられた。またマルチングは、キャッサバ、パイナップルなどの作物を栽培する際にも収量の増加をもたらした。しかし、この地域での農林業的な利用は現段階では不可能であり、マルチング処理により森林を成立させ土壌環境の改良を長期に渡って行うことが推奨される。他の実験地では特別な土壌処理がなくても、リバ-レッドガムは旺盛な成長を示し、5年で36.83t/ha(タイ中部の過剰伐採で生じたソフトプリンサイトの発達した地域)から78.28t/ha(タイ東北部の砂質ロ-ム土壌の焼き畑跡地)の現存量に達し、林業的利用も可能であることが判明した。2.早成樹種造林地の土壌の変化昭和59年度から平成1年度までの6年間の継続調査により、植林前から、早成樹種の造林を経て、伐採可能なサイズに至るまでの1伐採周期について、土壌の物理性、化学性についての十分なデ-タを取ることができた。その結果、タイ東北部の砂質ロ-ム土壌地帯のリバ-レッドガムの植林地では、土壌水分の減少とそれによる土壌硬化がみとめられた。他の樹種の植林地や自然植生との比較も行ったがその違いは著しかった。化学性については、いずれの実験地でも明確な変化は認められず、唯一有機肥料の利用がpHと土壌有機物量の増加をもたらすことが認められた。3.リバ-レッドガムの呼吸と蒸散特性旺盛な成長を示すリバ-レッドガムの生理生態的特性を呼吸と蒸散の2点に絞り調査を行った。リバ-レッドガムは他の造林樹種や自然林の構成種に比べ、呼吸速度・蒸散速度ともに高かった。4.リバ-レッドガム造林における問題点我々の調査結果では、少なくとも1伐採周期の間は土壌養分の急激な消耗は認められなかったが、土壌水分の低下と、それに伴う土壌硬度の増加は明白であった。また、蒸散量の測定結果も、リバ-レッドガムの水分消費量が大きな事を裏付けた。リバ-レッドガムは耐乾性も強く造林樹種として有用ではあるが、水分環境に与える影響の大きさを十分認識して利用する必要がある。
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