研究概要 |
●概要 3年計画の最終年度にあたるため,本年度は,これまでに調査研究をおこなった地域における資料を充実するとともに,あらたに資料を補充する必要のある地域を選定して調査をおこなうことをおおきなもくろみとした。 調査研究地域としては,秋道(インドネシア東部一帯),後藤(ソロモン諸島マライタ島),田和(パプアニューギニア西部州,マレーシア・マラッカ海峡域),須田(マレー半島東海岸)といったように,東南アジアとメラネシアに分散して調査を実施した。現地調査は,平成4年7-11月にかけておこなった。 全体として,過去2年間における調査を補充するとともに,3年間にわたる調査研究計画をほぼ達成することができた。以下,各分担者がおこなった研究内容について個別にふれる。 ●個別研究 (秋道)代表者の秋道は,前年度にひきつづきインドネシア東部のスラウェシ州,マルク州において,沿岸の水産資源利用に関する調査を実施した。このなかで注目したのは,商品として重要なナマコ,フカヒレ,高瀬貝,海燕の巣,真珠母貝などをめぐって,さまざまな民族集団が多様なかかわりをもっている点である。とくに,BBMと総称されるブギス人(Buginese),ブトン人(Butonese),マカッカサル人(Makassarese)は広域にわたって水産資源の獲得から販売にいたる活動に関与している。これらの集団がそれぞれの海域でどのような役割を演じてきたのかについて,アルー諸島,ケイ諸島において調査をおこなった。 また,上述のBBM以外に,かつてより水上生活をいとなんできたバジャウ人もまた,換金性の高い水産資源を獲得してきたことでしられている。北スラウェシのメナド周辺,ティラムタ周辺,マルク州のカヨア島におけるバジャウ人の村で,資源利用と移動,他の民族集団との関係,資源管理の方法などに関する調査をおこなった。 こうした一連の調査を通じて,LIPI(インドネシア科学院)のスタッフとの緊密な学術的交流を達成することができたことはおおきな成果であった。 (後藤)ソロモン諸島では,後藤が平成2年度に調査を実施したマライタ島において継続調査をおこなった。貝貨の製作をめぐる時間研究や女性の役割に関する詳細な資料を追加するともに,村人全員を対象とした食生活に関する定性的な調査,水産物が廃棄される場所やその分布がもつ意味などに関する資料をあつめた。 (須田)マレーシアでは,須田が平成3年度に調査をおこなったマレー半島東海岸のトレンガヌ周辺地域において,水産資源利用における意志決定の問題や都市への若者の流出にともなう労働力不足の問題を中心に調査を実施した。 (田村)田村は,平成2年度に調査をおこなったパプアニューギニアに西部州カタタイにおいて沿岸に漁場利用に関する継続調査と,ナマコ漁の導入による漁撈活動体系の変化,ナマコ漁にみられる商業的な漁業と食糧獲得のための生存漁業とのあいだにおける分業,時間の配分,現金の使用目的の実態などに関する資料を収集し,平成2年度以降に急速な変化が現地社会に生じていることをあきらかにした。こうした継続的な追跡調査は,とくに開発や援助といった問題をかんがえる場合に不可欠であり,単年度方式ではなく,継続待にフォロー・アップをする研究計画が今後とも必要であることを提起したい。またマレーシアでは前年度の調査の補足として,水産物の生産者価格に関する実態調査を実施した。 ●今後の課題と展望 水産資源の利用に関する研究は,当該地域のみならず,世界的にも重視されている。さらにこうした研究を陸上の生態系との相互作用,人口稠密地帯,観光化と発展,漁民による移動といった問題を考慮して継続・発展してゆくする必要がある。その意味で,今回の調査研究がアジア・太平洋地域における一つのおおきな事例研究となりえたのではないかと自負している。今後,一層この問題を追究してゆきたいと考えている。
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