本年度の調査の主要な対象は、イラン東南部、ル-ト砂漠の西端に位置するシャ-ダ-ド遺跡である。この遺跡は1960年代末にイラン考古学センタ-とテヘラン大学の手で試掘が行われ、前3千年紀のユニ-クな文化と中央アジア(アフガニスタン)や西南イラン(エラム文明)との接触・交易関係を物語る遺物が発見されている。しかし、墓地の一部が発掘されただけで、しかも極く簡単な概報が出版されただけに終り、都市の全体の姿、遺跡を巡る環境や立地の問題については明らかにされてこなかった。 本調査では(1)シャ-ダ-ド遺跡全体を見て都市構造が明らかにし得るかどうか、つまり、今後の発掘調査に価するかどうかを確認すること、(2)シャ-ダ-ド遺跡の周辺に都市を支える農耕村落が存在するかどうか確認することを目的とした。 (1)の問題に関しては、表面採集により青銅治金工房の存在を物語る地点を確認したが、もう一つの関心事であるラピスラズリを中心とした貴石攻玉工房については存在を確認し得なかった。全体に文化層が浅く、しかも風蝕が甚だしく、良好な発掘地点は存在しない。 (2)の問題に関しては、同一水系の谷には時同期の農耕村落遺跡は発見されなかった。この点はメソポタミアの古代都市文明との大きな差異であり、乾燥化に伴う諸集落の放棄とシャ-ダ-ド遺跡への集中という事前の予想を覆すものである。金属や貴石の交易だけではなく、それを支える食料物資の交易をより広い観点で考察しなければならないであろう。
|